会社のデスクの上や、その周りもゴチャゴチャ。
会議や打ち合わせには毎回遅れるし、何をやらせても段取りが悪く、同じミスを繰り返す…。
あなたの部下や同僚にそんな人はいませんか?
もしかしたら、その人は「発達障害」かもしれません。
「発達障害の人と共に働くこと」では、職場で発達障害の人と接する場合の対応策や、どのような工夫がされれば、当事者とその周囲の人たちが気持ちよく働けるかをまとめています。
第10回は、「職場でみられる発達障害…『集中力が続かない。仕事中の居眠りが多い』」の続き、「職場でみられる発達障害…『忘れやすい。忘れ物が多い』を解説していきます。
目次
職場でみられる発達障害
ここでは、発達障害が疑われる人たちの職場での振る舞いや仕事ぶりなどの例をあげて、周囲がどのように対応すればよいかを提案していきます。
アスペルガー症候群を含むASDとADHDの複合型だったり、その複合に度合いが異なったり、加えて二次障害を抱えるなど、個々でさまざまな病態がみられるため、事例が似ているからといって診断や対応策が全て当てはまるとは限りません。
また、大前提として、これらに似た様子の人を発達障害と決めつけることは最も回避するべきことです。
【事例3】…「忘れやすい。忘れ物が多い」(Kさん・20代女性)
20代後半のKさんは、OA機器販売会社で経理事務の仕事を任されていました。
小学校の頃から「落ち着きがない」「忘れっぽい」「何度失敗しても懲りない」と、親や教師から注意されていて、「頭の中でいろんなことが次々と浮かんで、一人でよく空想していた」という子どもだったようです。
経理事務はスピードと正確性が求められる仕事ですが、Kさんは「数字の桁を間違える」「記入先が一段ずつズレている」などのケアレスミスがとても多く、手書きの伝票は大きく枠からはみ出して書いてしまうなど、枠内に字をきちんと収めることができません。
また、「忘れっぽさ」がかなりひどく、不在の同僚や上司宛の電話を受けると、相手先の名前や伝言内容、さらには電話がかかってきたことすら忘れてしまうこともあります。
伝言メモを取るようにしても、そのメモ帳をどこにしまったか忘れていまいます。
やがて、同僚や先輩たちから、「仕事ができない」「だらしがない」「頭が悪い」「給料ドロボー」などという陰口を耳にしたKさんは、とてもショックを受けて、会社へ行こうとすると過呼吸を起こすようになってしまいました。
遅刻、無断欠勤も多くなり、解雇に近い形で退社。
心療内科では、「パニック症候群」と診断されて、処方もされましたが、いっこうに改善する様子がありません…。
考えられる症状
ADHDを抱えている人は、日常の業務や単純作業がうまくこなせないことがよくみられます。
集中力が長続きせず、単純作業や繰り返し作業に飽きやすく、ワーキングメモリーが少ないため、注意すべき複数のことを頭にとどめながら作業することが苦手です。
書類の記入漏れ、印鑑の押し忘れ、印鑑をきちんと押すことにさえ気が回らない時もあります。
ケアレスミスは、特に致命的なミスにつながることもあるため、周囲は叱責しますが、ADHD特有の不注意からくるもののため、何度注意しても繰り返してしまいます。
このような日常生活の困難さから、パニック症候群を併発したと考えられます。
周囲の対応策
単純作業に飽きないよう、作業を小分けにして目標を決めながら完了に向かわせます。
通常より目標値を下げて、ハードルを越えるたび、達成感を実感させるようにすると更によいでしょう。
注意ばかりせず、仕事が完了したら褒めることも大切です。
また、ケアレスミス予防のために、メモを取ったり、こまめにそのメモを見返し、作業の節目に常に見直しを怠らないように促すことも大切です。
次回、「職場でみられる発達障害…『空気が読めない。思い立つとすぐ行動せずにいられない』」、へ続く