会社のデスクの上や、その周りもゴチャゴチャ。
会議や打ち合わせには毎回遅れるし、何をやらせても段取りが悪く、同じミスを繰り返す…。
あなたの部下や同僚にそんな人はいませんか?
もしかしたら、その人は「発達障害」かもしれません。
「発達障害の人と共に働くこと」では、職場で発達障害の人と接する場合の対応策や、どのような工夫がされれば、当事者とその周囲の人たちが気持ちよく働けるかをまとめています。
第24回は、「職場でみられる発達障害…『相手の非を許すことができない。正義感が強く、自分が常に正しいと思い込む』」の続き、「職場でみられる発達障害…『クレーマーになる。感情が不安定。依存症に陥る』」を解説していきます。
目次
職場でみられる発達障害
ここでは、発達障害が疑われる人たちの職場での振る舞いや仕事ぶりなどの例をあげて、周囲がどのように対応すればよいかを提案していきます。
アスペルガー症候群を含むASDとADHDの複合型だったり、その複合に度合いが異なったり、加えて二次障害を抱えるなど、個々でさまざまな病態がみられるため、事例が似ているからといって診断や対応策が全て当てはまるとは限りません。
また、大前提として、これらに似た様子の人を発達障害と決めつけることは最も回避するべきことです。
【事例17】…「感情が不安定で依存症に陥る。クレーマーになる」(Hさん・30代男性)
Hさんは大手の銀行で勤務している入行5年目の男性です。
中学・高校は都内で屈指の進学校で、大学は一浪したものの、国立大学の法学部に入学。
高い学歴が示すように成績は優秀です。
しかし、Hさんは幼少期から、人の話が聞けない、知らない人の前では極度に緊張してしまう、忘れ物が多い、すぐに苛立ち、極度に落ち込む…などの傾向がありました。
学生時代は特に問題はありませんでしたが、就職してからは、これらの傾向に密かに悩むようになっていました。
また、2年前に大学時代から交際していた女性と別れて以来、「仕事でもプライベートでも、ネガディブな結果を想像してしまい、安易に絶望的になるようになった」そうです。
職場では、少しでも意見が違ったり反対意見があがると、話の途中で「じゃあもういいです!」と、一言で切り捨ててしまったり、取引が不発に終わると「もうだめだ、もう終わりだ」と頭を抱えて意気消沈するなど、短絡的な結果を出す傾向があり、それに伴うストレスも抱えていました。
ある日、電話中のHさんが「では訴訟を起こします」と、怒りをあらわしながら立て続けに話しているので、何が起こったのか聞いてみると、クレームの電話でした。
相手は携帯電話会社、駐車違反の切符を切られた女性警官、出版社などさまざま。
説明書に不備がある、事実誤認がある、法的に問題がある…など、文章の細かい点にこだわり、謝罪や説明を要求していたのです。
Hさんは、イライラしたり、落ち込んでしまう日が続き、以前はたしなむ程度だったお酒に依存するようになり、酒量は日に日に増えていきました。
今では「毎日、飲んでいます。寝る前に強い酒を飲まないと眠れない」「休みの日は昼から飲んでしまう」「月曜に出社すると“酒臭い”と、上司から厳しく注意を受けた」と、アルコールへの依存が生活をむしばみ始めています…。
考えられる症状
度を越した忘れ物、すぐにカッとなったり、極端に落ち込む、イライラするなどの感情の不安定さ、ストレス耐性の低さは、ADHDの症状と言えます。
併せてあらわれるのが依存症で、Hさんの場合、アルコールの依存に陥っているということになります。
周囲の対応策
依存が深刻な場合は、すぐに専門医の指導を受けることが重要です。
成績良好で一見、順調な人生にみえたものの、社会人になってから本人が自分の傾向に気づいて悩んでいることから、医師の診断を受けいれやすいタイプの人と思われます。
職場での感情の不安定さも、仕事のストレスが影響しているかもしれません。
また、交際相手との別れがきっかけで、感情の不安定さに拍車をかけていると考えられます。
職場では、プレッシャーがかかる仕事や取引先を任せない、適度な休暇を取らせるなど、本人とよく話した上で対応しましょう。
次回、「職場でみられる発達障害…『相手に関心がないので双方向の会話やコミュニケーションがとれない』」、へ続く