うつ病になる人は年々増えていると言われており、厚生労労働省の調査では、日本の潜在的なうつ病患者の人数は600万人を超えると言われています。
うつ病患者の中でも、最近増え始めていると言われているのが「非定型うつ病」と呼ばれるニュータイプのうつ病です。
「非定型うつ病ってどんな病気?」では、専門家でも理解が不十分とも言われている「非定型うつ病」とは、どんな病気なのか?その症状や治療法などを紹介していきます。
第29回は、「社交不安症はどんな場面が怖いのか」の続き、「ストレス障害(PTSD)とはどんな病気か」をみていきます。
ストレス障害(PTSD)とはどんな病気か
生命にかかわるような恐怖体験をきっかけに、心身に症状があらわれるPTSD。
衝撃的な体験は、脳に外傷を与え、記憶はその人の一生を直接的・間接的に支配すると言われています。
生命にかかわるような激しい恐怖体験
ストレス障害は、正式には「心的外傷後ストレス障害」と言います。
最近では、PTSD(Post-traumatic Stress Disorder)という略語がよく使われています。
PTSDは、生命の危機にかかわるような重大な事件を自分自身で体験する、もしくは、他人が体験するのを目撃して、激しい恐怖やストレスなどに襲われることが出発点になります。
事件後、多くは半年以内に次のような症状があらわれます。
- ストレス源となった事件に関する思い出が、自分の意思に反して繰り返しあらわれる(フラッシュバック)
- 事件についての嫌な夢を何度も見たり、まるでその事件の中にいるように行動したりする
- 事件を象徴するような事柄にふれると、激しく心が痛み、不安の身体症状(手の震え、息苦しさ、冷や汗、胸痛、心悸亢進、パニック発作など)があらわれる
- 事件と関連する事柄を避ける、事件を思い出すことができなくなる
- 睡眠障害、イライラ、集中できない、オドオド、小さなことに驚くなど、神経の過敏状態を伴う
PTSDの原因となるストレスは、母親に叱られたり、父親に殴られたなどの日常的なものではなく、
- 大災害で瀕死の重傷を負う
- 激しい虐待を長期に渡って体験する
- 戦争で捕虜になり拷問を受ける
などのすさまじい恐怖と苦しみの経験です。
ただし、恐怖体験をした人全てPTSDになるとは限りません。
阪神・淡路大震災の時にPTSDが話題となり、患者さんの増加が懸念されましたが、実際PTSDと診断された人はそれほど多くありませんでした。
PTSDの発症は、与えられたストレスの強さと、与えられた人の感受性の程度(ストレス耐性)が相互に関係します。
現在の日本では、男性は交通事故、女性は性的暴行によるPTSDが最も多くなっています。
恐怖は心(脳)に衝撃を与え、元に戻せない傷をつくる
PTSDの「T」は、「トラウマ(Trauma)」の頭文字で、心的外傷(心の傷)のことを指しています。
PTSDの体験は、人間の対処能力をはるかに超える圧倒的な体験で、その人の心に強い衝撃を与え、元に戻すことができないような変化を与えます。
単に心理的な影響を残すだけでなく、脳に「外傷」をつくり、生理学的な変化を引き起こすことが研究で明らかになってきています。
特に幼少期の成長過程で心的外傷を受けると、
- 海馬(情動と記憶を調整)が発達できずに委縮する
- 扁桃体領域(攻撃行動や恐怖反応、情動的な記憶にかかわる)の血流が低下する
- ブローカー中枢部(言語にかかわる)の機能が低下する
など、脳の発育にダメージを与えるとされています。
このような脳の外傷によってもたらされた恐怖の記憶は、時間が経っても薄れることはなく、その人が意識するしないに関わらず、その人の心と行動を一生、直接的・間接的に支配するとされています。
次回、「PTSDと、うつ病・パニック症との類似症状」へ続く