うつ病になる人は年々増えていると言われており、厚生労労働省の調査では、日本の潜在的なうつ病患者の人数は600万人を超えると言われています。
うつ病患者の中でも、最近増え始めていると言われているのが「非定型うつ病」と呼ばれるニュータイプのうつ病です。
「非定型うつ病ってどんな病気?」では、専門家でも理解が不十分とも言われている「非定型うつ病」とは、どんな病気なのか?その症状や治療法などを紹介していきます。
第37回は、「非定型うつ病の治療 ① 薬物療法」の続き、「非定型うつ病の治療 ② 精神療法」をみていきます。
目次
非定型うつ病の治療 ② 精神療法
非定型うつ病の治療法は薬物療法が中心になりますが、精神療法もとても重要です。
病気のきっかけになったり悪化させたりする考え方の「クセ」。
それに気づき、直す方法を身に着けるのが「認知行動療法」。
そして、「人間関係療法」です。
これら2つは、薬と同じくらい効果があることが認められています。
薬(MOAI)と同じくらい効果がある「認知行動療法」
「認知行動療法」は、「認知療法」の考え方と「行動療法」の手法が統合された療法です。
アメリカで開発され、英語名は、「Cognitive and Behavioral Therapy」。
略して「CBT」と呼ばれることもあります。
「行動療法」とは、誤った学習で身についた好ましくない状況を再学習することで、不適切な行動を減らし、適切な行動を増やしていく治療法です。
恐怖症の治療に最も効果があるといわれています。
また、「認知療法」の「認知」とは、「ものの見方、考え方」という意味です。
病気によってマイマスとなる見方や考え方を変えていくよう導くのが認知療法で、精神科医、または臨床心理士の元で行います。
両者を合わせた「認知行動療法」の特徴は、精神(考え方)と行動の両面のゆがみを、患者さん自身が気づき、直す方法を身につけるところにあります。
認知行動療法は、うつ病をはじめ、さまざまな精神疾患に効果があることが世界的に認められています。
●薬物療法との比較
認知行動療法の効果を、非定型うつ病の場合でみてみると、MAOI(薬品名:フェネルジン)を使う薬物療法と同じように効くという研究報告があります。
この結果をもう少し詳しくみていきましょう。
非定型うつ病に対して行われた認知行動療法の有効率は、58%、
フェネルジンの有効率も58%で全く同じでした。
一方、偽薬への反応は、28%で、薬物療法にも認知行動療法にも高い効果があることは明らかです。
では、両者を併用すると、どうなるのでしょうか。
非定型うつ病ではまだ調査されていませんが、慢性うつ病患者への治療効果を調べたものがあります。
その結果、認知行動療法と薬物療法を併用した場合、さらに高い効果があることが分かりました。
また、調査対象を幼少時に虐待や両親との離別を経験した患者群に絞ると、認知行動療法の方が薬物療法よりも高い効果が出ています。
心の傷が強い人ほど、認知行動療法の効果があらわれるといえそうです。
葛藤やあつれきがほぐれ、喜びがうまれる「人間関係療法」
人間関係のトラブルは、うつ病発症にかかわる重要な因子の一つです。
非定型うつ病の人は、もともと感情が過敏で人間関係に悩みやすく、それが病気の引き金になることがあります。
また、実際にうつ病になると、病気が患者さんと周囲の人との人間関係に影響を与え、軋轢を生むこともあり、それがうつ病の悪化にも繋がります。
「人間関係療法」は、問題を人間関係に絞って行う療法です。
テーマは、対人関係における、
- 感情のもつれ
- 葛藤
- 力関係の変化
- 正常な範囲を超えた離別や死別体験への反応
などです。
これらのテーマについて、医師は患者さんと十分な話し合いを重ね、カウンセリングを行います。
この人間関係療法を終えた頃には、多くの患者さんが人間関係に安心感や信頼感を持てるようになり、喜びが生まれ、それが病気の経過にもよい影響を与えていきます。
病気への対処法を身につける認知行動療法のプログラム
認知行動療法は、病気によってアプローチ内容が異なりますが、非定型うつ病ではどのように行われるのでしょうか。
名古屋のメンタルクリニックで行われているプログラムをご紹介します。
●患者さんの家族への心理教育
まず、患者さんと同伴した家族に病気への理解を深めてもらいます。
家族の理解は、病気の経過に大きく影響するためです。
話の内容は、
- 病気について
- 治療法について
- 患者さんへの家族の対応について
- 予想される病気の経過について
などです。
カウンセラーとの質疑応答も行われます。
●ストレスコーピング
患者さんには、まずストレスの本質を理解してもらいます。
自分が何にストレスを感じるかを分析したり、ストレスが感情、体、行動に及ぼす影響を知り、それに対する対処法も学びます。
※コーピングとは、「病気の原因となっているものへの対策」を意味する言葉で、認知行動療法でよく使われます。
●感情コントロールトレーニング
非定型うつ病の感情の動きの特徴、落ち込みや興奮、怒りなど自分の感情の記録法(セルフモニタリング)、劇場への対処法や気分転換の方法などを学びます。
●自己の客観視
自分を客観的にながめる方法を身に着け、静かで穏やかな気持ちをとり戻ります。
そのための呼吸法や瞑想法などを学びます。
症状の軽減だけでなく、成熟した人格づくりが目標になります。
●人間関係の改善
医師は、患者さんと周囲の人との会話を綿密にチェックし、問題点を明らかにします。
その上で、患者さんは4つの技術(スキル)を習得します。
- 自分の気持ちは考えを正確に把握する技術
- 周囲の人や状況を冷静に観察する技術
- 自分の要求や希望を明確に表現する技術
- 言葉以外の信号(身振り、表情、姿勢、視線など)を活用する技術
この4つの技術を身に着け、自己主張や自己表現がうまくできるようになると、人間関係がスムースになり、うつ状態に陥ることが少なくなっていきます。
●不安・抗うつ発作へのコーピング
自分の不安・抗うつ発作について、気づく練習からはじめます。
さらに、どのような状況で不安・抑うつ発作が起こりやすいかを知り、その状況を作らないように生活習慣を変えていきます。
また。不安・抑うつ発作が起こってしまったときに備え、それを最小限にとどめる方法も学びます。
●日常生活の改善
非定型うつ病の典型的な症状、過眠、過食、鉛様疲労への対処法や、健康的な生活を送るための学習を進め、毎日がどう変化したか結果を記録します。
記録することで、自分の生活習慣を見直すことができます。
次回、「パニック症の治療 ① 薬物療法」へ続く