十人十色、という言葉があるように、物事の受け止め方や行動には、当然個人差があり、性格や考え方、趣味嗜好などは人それぞれ違いがあります。
しかし、中にはある特定の性格に強い偏りがあり、そのために苦しんでいる人がいます。
性格の偏りや癖によって、大多数の人とは違う言動をしてしまい、本人や周囲の人が困っている、または支障をきたしている状態の時に診断されるのが、「パーソナリティ障害」です。
以前は人格障害とも呼ばれていましたが、「本人の性格が悪い」「人格の病気だから治らない」などといった誤解を生みやすかったため、今ではパーソナリティ障害という呼び方が一般的になっています。
目次
パーソナリティ障害の特徴
以下は、パーソナリティ障害全般に見られる症状です。
- 認知や感情、衝動のコントロール、対人関係など、様々な分野に障害が生じる。
- 摂食障害やうつ病など、合併して発症している他の障害が前面に出ている場合がある。
- 情緒不安定で衝動的な行動をくり返す。
- 会話の最中に通常では考えられないような返事をする。
- 本人が異常さに気づいていない。
パーソナリティ障害と一口に言っても、その症状は細分化されており、アメリカ精神医学会によって10種類に分類されています。
また、10種類に分けられた症状は、近いもの同士で3つのグループに分けられています。
- A群:奇妙な考え方や行動がみられる。統合失調症に近い症状が現れる。
- B群:感情的で移り気、不安定。演技的な行動を取りやすい。
- C群:不安や恐怖を強く感じる。抑うつ的な症状がみられる。
A群のパーソナリティ障害
妄想性パーソナリティ障害
過度に他人を信用できず、自分勝手な妄想や思い込みをするのが「妄想性パーソナリティ障害」です。
他人が自分を騙したり、危害を与えようとしていると思い込み、悪意のない行動を攻撃として受け取ります。
仕事の進捗を尋ねられると「どうせできないと馬鹿にされている」と感じたり、逆に褒められると「もっと上手くやれと言われている」と感じてしまうなどの例があります。
妄想性パーソナリティ障害の人は、孤独で傷つきやすく、愛情を示す人に対しても、最初は警戒的でなかなか心を開くことができません。
しかし、いったん心を開くと相手の存在はとても特別なものになり、相手が自分のためにだけ存在するかのような思い込みに陥ってしまうことがあります。
統合失調質パーソナリティ障害
非常に内向的で他人に興味を持たず、孤独を好む。
また、感情の起伏が乏しいという特徴があるのが「統合失調質パーソナリティ障害」です。
他人と親密になりたいと思わないため、友人や恋人はおろか、家族とも疎遠な場合があります。
また、他人の目が気にならないため、批判されたり褒められたりしても意に介さず、強い感情を表すことも基本的にありません。
統合失調質パーソナリティ障害の人は、静かで淡々として生活を好み、たとえお金があっても、食事や衣服などにお金をかけるということもありません。
様々な「欲」がとぼしく、さらに喜怒哀楽などの感情も淡泊で希薄な傾向がありますが、本当はとても繊細な一面があります。
統合失調型パーソナリティ障害
何も関係がなさそうなことに関係を見出し、普通でない繋げ方をしてしまうのが、「統合失調型パーソナリティ障害」です。
例えば、自分がたまたま考えていたことに関連した行動を他の人がした場合、自分がその人を操ったと感じてしまいます。
そのために、自分に魔術的な力やテレパシー、超能力があると感じられたリ、オカルトに熱中したりする傾向があります。
また、認知の歪みなどによって、親しかった相手と急に気楽に付き合えなくなることがあります。
アスペルガー症候群で大人になった人と、マイペースな対人関係や行動のスタイルが似ている点も多く、区別がつきにくい場合があります。
統合失調症パーソナリティ障害の人は、超越的な存在や非理論的思考に親和性を持つのに対し、アスペルガー症候群の人は、客観的で観察的な傾向があります。
B群のパーソナリティ障害
自己愛性パーソナリティ障害
自分は他人よりも優れていると思い込み、自己を過大評価するのが、「自己愛性パーソナリティ障害」です。
自分は特別な存在だと思っていて、それにふさわしい華やかな成功をいつも夢見ています。
他人に褒められたい、尊敬されたいという思いが強く、自分のしたことを強調して話す特徴があります。
また、周囲も自分に同調してくれると考えており、少しでも批判されると強く傷つきます。
一方で、自分以外のことは過小評価する傾向にあり、他人の才能や業績には批判的です。
反(非)社会性パーソナリティ障害
他人を欺いたり、権利を侵害することなどに罪悪感を持たないのが、「反(非)社会性パーソナリティ障害」です。
人や動物への攻撃、所有物の破壊、窃盗、重大な規則違反等を繰り返す傾向があります。
謝罪したり、行動を改めたりするという発想そのものがなく、自分の言動のために犠牲になった人がいたとしても、逆に被害者を非難してしまいがちです。
「サイコパス」という言葉がありますが、この反(非)社会性パーソナリティ障害とほぼ同義として扱われる場合もあります。
演技性パーソナリティ障害
自分への注目や関心を集めるため、芝居がかかった嘘をついたり、性的なアピールをするのが「演技性パーソナリティ障害」です。
自分が話題の中心になっていなければ気が済まないため、注目を集められないと感じると泣き出したり、周囲を非難する傾向があります。
作り話をしたり、騒動を起こしたり、自殺の素振りを見せたりなど、あらゆる方法で人の気を惹こうとします。
また、自分の外見や魅力を過剰に気にするのもこの障害の特徴で、知り合っただけの人などにまで性的に挑発したりすることがあります。
境界性パーソナリティ障害
パーソナリティ障害の中で最も多くみられるのが、「境界性パーソナリティ障害」です。
「境界性」とは、「神経症」と「統合失調症」の境界にある障害という意味で、それぞれと共通する特徴を持ちます。
境界性パーソナリティ障害の大きな特徴は、感情が不安定であることと、0か100かの極端な思考です。
同じ相手であるにも関わらず、絶賛していたかと思えば突然こき下ろすようになったり、親しくしていたにも関わらず急に攻撃的になったりします。
また、見捨てられることを極端に恐れており、少しのすれ違いで嫌われたと思い込んで強く傷ついたりします。
統合失調症に近い症状としては、現実を冷静に認識できずに被害妄想や幻聴が起きる可能性があります。
境界性パーソナリティ障害は女性に多く見られ、男性の約3倍と言われています。
近年、急速に増加している背景には、母親との関係、父親の存在の希薄化が挙げられていますが、全てのケースに共通して言えるのは、父親、または母親から必要な愛情が適切に注がれなかった点が指摘されています。
C群のパーソナリティ障害
依存性パーソナリティ障害
他人からの助言がなければ、ささいなことでも自分では決められないのが、「依存性パーソナリティ障害」です。
自分一人ではなにもできないと信じ込んでおり、その日着る服や食事のメニュー、傘を持っていくかなどといったことまで自分では決められないこともあります。
親や配偶者など、特定の人物に強く依存し、その人と離れることを極端に怖がるため、暴力を振るわれたり、やりたくないことを強要されても我慢してしまいます。
もしも、依存していた相手と一緒にいられなくなった場合には、すぐに世話をしてもらえる他の誰かを探そうとする傾向があります。
依存性パーソナリティ障害には、大きく分けて2つのタイプがあります。
一つは「赤ん坊型」と言われるタイプで、受動的な依存が目立ち、日常生活能力自体が低下すていることが多いようです。
もう一つは「献身型」と言われるタイプで、能動的な依存が目立ちます。
日常生活能力には問題がなく、むしろ活動的ですが、主体的に生きていくことができず、リーダーシップを取ってくれる人を求めようとします。
強迫性パーソナリティ障害
秩序や完璧主義にこだわりすぎて、柔軟性や効率性を損なうのが、「強迫性パーソナリティ障害」です。
規則や手順などの決まりごとを気にし過ぎるあまり、本来の目的を達成することがおろそかになってしまいます。
例えば、報告書の作成を頼まれると、何度作っても満足いかずに作り直し、結果として期日に間に合わなくなるなど、道徳や倫理にはやたらと誠実な一方で、約束の時間を過ぎることなどには頓着しません。
また、自分の価値観を他人にも強要する傾向があり、自分の計画した通りに他の人が動かないと怒り出すことがある他、通常であればできないとわかるようなことをやらせようとすることがあります。
これまで述べてきたパーソナリティ障害の中でも、最も「パーソナリティ障害」らしくなく、とてもきちっとしていて、対人関係でも、仕事でも、責任と義務を大切にする、信頼できる人とも言えます。
回避(不安)性パーソナリティ障害
批判や嘲笑されることや、恥をかくことを恐れて、人との接触を避けようとするのが「回避(不安)性パーソナリティ障害」です。
自分には長所がない、他の人達よりも劣っていると考えており、何かを言われて泣き出したり、顔が赤くなってしまうことを過剰に恐れます。
また、自分の発言が周囲に受け入れられることはないと考えているため、言いたいことがあっても言おうとしない傾向があります。
拒絶が怖いために友人を作れなかったり、同僚からの批判が怖くて昇進の話があっても断ってしまったりします。
回避性パーソナリティ障害の人にとって、社会で生きることは楽しいよりも、苦痛ばかりに感じされてしまいます。
嫌な思いをするくらいなら、何もしないほうがマシという信念があり、いわゆる「食わず嫌い」の人生観に支配されているとも言えます。
ここまでのまとめ
パーソナリティ障害は、性格の偏りによって大多数の人とは違う反応や行動をしてしまい、そのために本人や周囲の人が困っている場合に診断される病気です。
主な特徴は、「衝動的な行動」「通常では考えられない発言」「対人関係に支障」「障害の自覚がない」などですが、細かい症状はアメリカ精神医学会によって10種類に分類されています。
パーソナリティ障害で最も多くみられるのが「境界性パーソナリティ障害」で、0か100か思考や不安定な感情などがその大きな特徴です。
参考:
パーソナリティ障害 いかに接し、どう克服するか,岡田尊司,PHP研究所,2004/5/31