学校の入学や会社の新卒入社、それに伴う引っ越しなど、日本では4月が生活の区切りになっています。
新しい環境で張り切って取り組んでいたのに、だんだんと疲れたり、気分が落ちてきて、ゴールデンウィークで実家に帰ったらそのまま会社に行けなくなってしまった・・・。
いわゆる「五月病」と呼ばれる症状ですが、このように、季節の変化によって引き起こされる精神疾患のことを「季節性感情障害(SAD)※1」と呼びます。
季節性感情障害は、「季節性のうつ」と言うこともあり、症状も、
- 気分の落ち込み
- 生きる気力がなくなる
- 元気が出ない
- 物事を楽しめない
- 人と会いたくなくなる
- イライラする
- 考えたり、集中することができない
など、いわゆる「うつ病」とほとんど変わりません。
季節性感情障害の特徴は、名前の通りその原因が季節の移り変わりにあることです。
五月病だから放っておけばすぐに治るなどと簡単に考えず、自分の症状と向き合ってみてください。
目次
季節性感情障害の原因はストレス!
季節性感情障害が発症する原因として考えられているのは、環境変化によるストレスです。
脳には、“幸運の物質”などと呼ばれることもある 「セロトニン」という脳内物質があります。
セロトニンが分泌されると、「心の安定」「満足感」を得られることができると考えられています。
一方でセロトニンが不足してしまうと「不安感」「気分の抑うつ」といったうつ病の症状が現れてしまいます。
ストレスを受けるとストレスホルモンが分泌され、セロトニン神経を刺激してしまいます。
セロトニン神経が刺激を受けると、セロトニンの分泌が抑制されるため、上記の症状が出てきてしまいます。
季節の変化によって知らず知らずのうちにストレスを受け、セロトニンの分泌が抑制されてしまう・・・。
これが、季節性感情障害の起こる原因です。
季節性感情障害、元々は冬に多かった?
季節性感情障害は、元々は「冬季うつ」と呼ばれることもある病気でした。
楽しかった夏が過ぎ、気温が下がっていくと、心も落ち込んでしまうことがありますよね。
特に、寒さに弱く、ウィンタースポーツなどにも特に興味がない人であれば、冬の間は家にこもりっきりになってしまう人も珍しくないのではないでしょうか。
そのような環境からストレスを受けてしまい、うつ病の症状が出てしまう・・・。
これが、「冬季うつ」と呼ばれるようになった理由です。
また、セロトニンの分泌には太陽光も大きな影響を与えると考えられており、冬場は太陽光を浴びる機会が少なくなることも、冬季うつの原因とされています。
季節性感情障害が春に増えてきた理由は・・・?
「冬季うつ」と呼ばれるほどに、冬のシーズンと関係が深かった季節性感情障害ですが、最近では春に増加がみられるようになっています。
その理由は、新しい環境への移行によるストレスにあります。
始めに述べたように、日本では学校や会社など、生活環境の変化が4月に集中します。
新しい環境に対して、期待やワクワクといったものもあるかと思いますが、それ以上に「不安」を感じてしまうこともあります。
また、春は、日照時間が短い冬と、長い夏の真ん中で移行期間になるため、体内時計が「時差ぼけ」のような状態になり、体がだるさを感じたり、疲れが取れないような症状があらわれやすくなります。
さらに、寒い冬は気温が低く、交感神経が優位になりますが、春になり暖かくなってくると、今度は副交感神経が優位になります。
昼と夜も寒暖差も大きくなるため、自律神経も乱れやすく、体調を崩しやすい時期でもあります。
このように、夏から冬にかけての環境の変化と同じように、春からの様々な生活環境の変化によっても季節性感情障害は引き起こされてしまうのです。
季節性感情障害 8つの予防法!
季節性感情障害は、本人が気づかない間に進行してしまう病気です。
そのため、普段からの生活に気を配ることで予防に繋がります。
季節性感情障害は、以下の8つの点に注意することで対策できます。
- 光を浴びて生活しよう
- 引っ越しには要注意
- 旧友を大切に
- 行事はほどほどに
- 身体を冷やさない
- 無理な運動は禁物
- 予定はしっかり把握しよう
- バランスのよい食事を摂ろう
光を浴びて生活しよう
「冬季うつ」の説明でも触れたように、セロトニンの分泌と、太陽光には大きな関係があります。
そのため、ウォーキングやショッピングなど、何でもいいので、太陽の下で光を浴びるだけでも季節性感情障害の予防になります。
また、屋内の灯りも同様です。
部屋を暗くしていると、心も暗くなってしまい、ストレスに繋がってしまうことがあります。
部屋の明るさを強めることも、予防として効果があります。
ただし、一日中明るくしていると自律神経が休まらず、返って体調を崩してしまう場合もあるので、太陽のリズムに合わせ、日中は明かりを強めにし、夕方以降は明るさを落とすなどの調整が必要です。
引っ越しには要注意
春期の季節性感情障害は生活環境の変化によって引き起こされるため、引っ越しはまさに生活環境を変化させる大きな原因です。
もちろん、環境を変えることは必ずしも悪いことばかりではないですし、仕事の都合などで引っ越しせざるを得ない場合もあります。
しかし、「住居」「人間関係」「買い物環境」などの変化はストレスの元となることも珍しくありません。
さらに、引っ越し先が遠い場合には、気候の変化が大きな負担となる場合もあります。
衝動的な引っ越しは避け、引っ越し先を事前に入念に調べ、慎重に決める必要があるでしょう。
旧友を大切に
進学、入社、転勤などがあると、これまでの人間関係から新しい人間関係へと大きく変わりますが、この時に新しい関係を上手く構築できないと、季節性感情障害の原因になります。
新しい環境に移る前に、以前の人間関係を解消してしまうと、新しい環境に上手く馴染めなかった場合に居場所を失ってしまいます。
昔の人間関係を維持したまま新しい環境に挑み、上手くいかないことがあれば相談に乗ってもらうなど、旧友との関係を大事にして、ストレスを溜めないようにしてください。
行事はほどほどに
「花見」「歓迎会」「送別会」「同窓会」「運動会」「卒業式」「入学式」・・・。
春に行われるイベントはとても多いですが、こういった行事がストレスに繋がることもあります。
親しい友人しか参加していないようなイベントであっても、身体に負荷がかかることはあります。
無理にすべての行事に参加するのではなく、時には身体を休めることを優先したほうが良いこともあるかもしれません。
身体を冷やさない
春と言えば、温かく過ごしやすい季節ですが、一方で、朝晩は冷えることもあり、暖かい昼間と寒暖差が生まれます。
そして、寒暖差が激しくなると、自律神経が乱れ、セロトニンの分泌にも影響を及ぼします。
すぐに暖かくなるからと薄着にし過ぎず、気温に合わせた適度な格好を心掛けましょう。
無理な運動は禁物
適度な運動はストレスの解消にもなり、季節性感情障害の予防に役立ちます。
しかし、冬の間あまり運動をしていなかったにも関わらず、春になって急に激しく運動をすることは好ましくありません。
過度な運動は疲労を蓄積させ、そのまま平日会社に通っていると疲労状態が解消されないまま続くことになります。
春になって久しぶりに運動をする場合には、負荷を少しずつ上げるようにして身体を慣らしていきましょう。
予定はしっかり把握しよう
春になると、仕事に限らず様々な用事が出てくると思います。
しかし、これをうろ覚えで管理していたがために予定を忘れてしまったり、ダブルブッキングなどを起こしてしまうと、非常に強いストレスを受けることになります。
予定を正確に把握し、余裕を持って行動することが、気分を落ち込ませないポイントです。
バランスのよい食事を摂ろう
冷たいものや食欲がない時にでも食べられるものだけを連日摂っていては、栄養が偏ってしまいます。
毎日3食、バランスよく食べるようにしましょう。
トリプトファン
トリプトファンは、セロトニンの材料となる必須アミノ酸です。
セロトニンには、自律神経のバランスを整え、精神を安定させてくれる効果があります。
トリプトファンは、体内では作り出すことができないため、食物から摂る必要があります。
トリプトファンを多く含む食材
- 肉
- 魚
- 卵
- 乳製品
- バナナ
- かぼちゃ
- 大豆製品 など
カルシウム、マグネシウム、ビタミンB群
神経の興奮を抑え、精神を安定させる効果があります。
不足するとイライラしやすくなるため積極的に摂取したいところです。
カルシウムを多く含む食材
- 乳製品
- 乳製品
- 小松菜 など
マグネシウムを多く含む食材
- アーモンド
- ひじき
- 豆腐 など
ビタミンB群を多く含む食材
- 玄米
- 豚肉
- うなぎ
- 納豆
- カツオ
- アーモンド など
ビタミンC
ストレスを感じるとコルチゾールというストレスに対抗するためのホルモンが分泌されますが、このコルチゾールの合成にはビタミンCが必要になります。
ビタミンCもまた、人間の体内では作り出すことができないため、積極的に摂るようにしましょう。
ビタミンCを多く含む食材
- キウイフルーツ
- いちご
- じゃがいも
- 赤ピーマン など
まとめ
新生活が始まるストレスに加え、季節の変わり目でもある時期にだけ起きる季節性感情霜害。
環境の変化で、心身ともにより疲れてしまうのかもしれません。
休日は、なるべく予定を入れずゆったりと過ごすなど、意識的に「ゆるみの時間」を増やすように心がけてみてください。
※1 Seasonal Affective Disorder の略。