会社のデスクの上や、その周りもゴチャゴチャ。
会議や打ち合わせには毎回遅れるし、何をやらせても段取りが悪く、同じミスを繰り返す…。
あなたの部下や同僚にそんな人はいませんか?
もしかしたら、その人は「発達障害」かもしれません。
「発達障害の人と共に働くこと」では、職場で発達障害の人と接する場合の対応策や、どのような工夫がされれば、当事者とその周囲の人たちが気持ちよく働けるかをまとめています。
第37回は「発達障害に似た症状と発達障害の治療法③ 発達障害を疑ったらまず受診」の続き、「発達障害に似た症状と発達障害の治療法④ 発達障害の主な治療法~心理療法と認知行動療法」を解説していきます。
目次
発達障害の主な治療法
心理療法と環境調整療法
発達障害と認知できていない場合、本人は自分の問題行動や精神疾患を、性格や努力不足、家庭環境、トラウマなどが原因だと思っていることが多くみられ、脳の機能障害が原因であると思っていないことがほとんどです。
そのため、「自分はダメな人間なんだ」と、自己評価や自尊感情が低くなったり、「親やイジメのせいだ」と、周囲に怒りや憎しみを向けてしまうことがあります。
そうなると、ますます周囲との軋轢がひどくなり、二次障害や合併症を発症し、問題はますます深刻化してしまいます。
大人の発達障害の治療は、初診時に、
- 性格や家庭環境が問題ではないこと
- 脳の発達がアンバランスであることが原因であり、心ではなく脳の問題であること
- 適切な治療を受ければ調整が可能であること
上記3点を、まず理解してもらうことが非常に重要になります。
事実を知って一時的に落ち込むことがあっても、原因が自分の怠慢ではないことを理解し、前向きになり治療に向き合うことができます。
また、治療を受けることは、周囲の人にとっても有効で、それまで性格が悪い、だらしない、怠け者、非常識、などの負のイメージを持っていた相手に対し、実は性格ではなく脳の問題であることが分かることで、改善する可能性を見いだせれば、周囲の人たちもストレスから解放されます。
心理療法(カウンセリング)
心理療法では、心因性やトラウマなどが原因となる不安障害やパーソナリティ障害などで重要な役割をもつ治療法のひとつですが、発達障害の二次障害や合併症の予防にも有効です。
心理療法は、次のものに焦点を当てます。
- 診断にともなう気持ちの整理
- 抱えている問題の整理
- 適切な行動の理解
- 社会スキルの学習
これらにより、本人の変化や成長を促し、家族も本人の状態を受け入れて、共に成長・変化していけるようにするものです。
まず、診断に対する本人の反応に取り組みます。
発達障害の人は、幼少期から叱られ続けたり、阻害されたりで、自尊感情が低い場合があります。
診断を受け、「自分はダメな人間ではない」と分かり、安心感と自責感の軽減を感じる人がほとんどのようです。
その一方、脳機能の障害であることを知って、悲嘆は絶望を感じる人もいます。
病気であることを受け容れられずに、やり場のない怒りや、周囲の人に対して苛立ちや憎悪を感じる場合もあります。
そのため、カウンセラー(治験者)は、彼らが悲観的、絶望的にならず、将来に希望をもって前向きに治療に取り組めるよう。
さらには、長所や能力に気づき、それを生かすよう促していくことが必要です。
発達障害の人は、その病態ゆえに予約した治療時間を忘れたり、カウンセラーと患者との間に信頼関係を築くのが難しい場合がありますが、寛容で包容力のある治験者を選び、すぐに結果を求めるのではなく、息の長い治療を心がけることも大切です。
心理療法や、カウンセリングともに、心理教育や環境調整療法、自助グループへの参加、薬物療法などを並行して行う必要があります。
認知行動療法
誰しもその人なりの「考え方の枠組み」に基づいて行動するものですが、この「枠組み」が歪んでいると、現状を正確に把握したり、冷製に判断できなくなります。
これを「認知の歪み」と言い、次のような例があります。
- 「マイナス思考」…全てを悲観的に考える
- 「過度の一般化」…些細な出来事を過度に一般化して考える
- 「~すべき思考」…「~であるべき」「~しなければならない」と考える
- 「二者択一的思考」…「白か黒か」「良いか悪いか」と考える
- 「個人化思考」…無関係なことでも何でも自分に関係しているように考える
認知行動療法は、このような認知の歪みを正すことで、偏った思考パターンから抜け出すための療法です。
カウンセラーと患者が一対一で、さまざまな場面や状況を例にあげ、物事の捉え方・考え方を修正して、社会に適応した行動がとれるように支援します。
- 破局的な物事の考え方を緩和し、否定的な考え方を肯定的なものに移行させる。
- 認知の歪みに気づけるように、それらに名前付け(ラベリング)する。
- 選択の幅・余地を検討し、多角的な物事の見方、プラスマイナス両方の側面を見るようにする。
自助グループ
発達障害を抱える人は、多くの場合、自己評価や自己肯定感が低く、職場など様々な場面で孤立しがちです。
そのため、同じような経験や苦痛を知る人々と語り合うことは、安心感を得られ、また不安を取り除くのに有効です。
同じ悩みをオープンに話せることで「ツラいのは自分だけではない」ことを実感し、不安が軽減されます。
全国的に展開している大人の発達障害の自助グループの他に、アルコール依存症のための「断酒会」や、薬物依存症のための「ダルク」、摂食障害のための「NABA」、ギャンブル依存症もための「GA」、買い物依存症・浪費癖のための「DA」、セックス・恋愛依存症のための「SA」などがあり、実績をあげています。
薬物療法
欧米の専門家や臨床医の間では、発達障害の中でも、特にADHDやASに薬物療法が有効と強調されています。
ADHDやASの不注意・多動性・衝動性をコントロール欠如、易変性(気分変動で突然ヒステリーや不安になり気分が不安定になる)、ストレス耐性の低さなどを改善する薬。
意欲や気分の減退、不安や焦燥感などを改善する薬。
夜間の睡眠障害を改善する薬などが、ASDやADHDの類似症状の改善に繋がります。
医師の説明をよく聞き、服薬にはどのような効果があり、またどんな副作用があるかなどもよく聞いた上で服薬するとよいでしょう。
次回、「【まとめ】発達障害の人の多様性を活かす」、へ続く