会社のデスクの上や、その周りもゴチャゴチャ。
会議や打ち合わせには毎回遅れるし、何をやらせても段取りが悪く、同じミスを繰り返す…。
あなたの部下や同僚にそんな人はいませんか?
もしかしたら、その人は「発達障害」かもしれません。
「発達障害の人と共に働くこと」では、職場で発達障害の人と接する場合の対応策や、どのような工夫がされれば、当事者とその周囲の人たちが気持ちよく働けるかをまとめています。
第25回は、「職場でみられる発達障害…『クレーマーになる。感情が不安定。依存症に陥る』」の続き、「職場でみられる発達障害…『相手に関心がないので双方向の会話やコミュニケーションがとれない』」を解説していきます。
目次
職場でみられる発達障害
ここでは、発達障害が疑われる人たちの職場での振る舞いや仕事ぶりなどの例をあげて、周囲がどのように対応すればよいかを提案していきます。
アスペルガー症候群を含むASDとADHDの複合型だったり、その複合に度合いが異なったり、加えて二次障害を抱えるなど、個々でさまざまな病態がみられるため、事例が似ているからといって診断や対応策が全て当てはまるとは限りません。
また、大前提として、これらに似た様子の人を発達障害と決めつけることは最も回避するべきことです。
【事例18】…「相手に関心がないので双方向の会話やコミュニケーションがとれない」(Jさん・30代男性)
Jさんは法律事務所で弁護士として働いている30代の男性です。
法科で有名な私立大学を卒業していますが、Jさんの先輩弁護士は「彼はいつもクライアントを怒らせてしまんです。なぜこんなにクレームが続くのか…」と、困っていました。
思い切って、打ち合わせの様子をクライアントに聞いてみると、Jさんは表情がまったく動かないので、常に不機嫌でつまらなそうに見える上に、話をするときには目も合わさず、ぷいと横を向いたまま…とのこと。
ある日、Jさんに「契約書はいつまでに戻せばいいですか?」と聞かれたので、「〇日までにお願いします」とクライアントが答えたところ、「その日は無理。休暇をとってアメリカに行っているので戻せません」と、Jさんは仏頂面で答えたそうです。
また、エレベーターに同乗したとき、乗りかかってる人がいたというのに「閉める」ボタンを押してしまうJさんの思いやりのなさに閉口し、そのクライアントは担当替えを申し出たということでした。
社内でも「挨拶をしない」「無視する」上司に対しても「これやって!」「ありえない、ありえない」と、耳を疑うようなタメ口をきくなど、評判はよくありません。
さらに、年末の飲み会を当日無断でキャンセルしたため、幹事が翌日「キャンセルの連絡ぐらい入れろよ」とJさんに注意すると、謝罪の言葉もなく、会費の1万円を入れた封筒を幹事のパソコンに貼り付けたそうです。
あまりの非礼に怒った上司が「一言あってもいいだろ!」と言われると「金、返せばいいでしょ?」とポツリ…。
その一件以来、上司との関係は険悪になり、関係修復は難しいものになってします。
悪気がないとはいえ、万事がこの調子のため、クライアントは逃げ、事務所仲間からは避けられ、上司からは呆れられ…。
「仕事熱心で優秀な人材なんですが…」と、先輩弁護士は頭を抱えています…。
考えられる症状
ASDの人は、そもそも人と親しくなりたいという思いが希薄です。
話すときも視線を合わせず、会話が形式的で話し方にも抑揚がないときがあります。
本人に悪気はないのですが、表情が仏頂面になり不機嫌に見えてしまいます。
また、社会常識が身についていないため、暗黙のルールがわからない、非常識なことを発言する、などのことがしばしばみられます。
周囲の対応策
話すときは相手の目を見る、会話は間合いをとる、相手によって言葉づかいを変える、など、通常、成長過程で身につけるべきことが身についていないため、ひとつひとつ指導していきます。
ルールは慣習がわかっていない、あるいはわかっていても守ることができないため、「エレベーターでは、乗ってきそうな人がいたら『開く』ボタンを押して待つ、クライアントや上の立場の人から先に降りていただくよう、『開く』ボタンを押して待つ」など、具体的な指示を出しましょう。
イラスト、4コマ漫画など、可視化したもので指導すると伝わりやすい場合があります。
次回、「職場でみられる発達障害…『怒られても反省せず、懲りずに同じ失敗を繰り返す』」、へ続く