「人前に出るのが苦手…」
「人がいるところで何かをするのが苦手…」
そんな風に感じている人は意外と多いものです。
では、なぜ「人が怖い」と感じてしまうのでしょうか?
社交不安症は、子どもや若者だけでなく、大人でもつらい思いをしている人が大勢いる病気です。
「社交不安症ってどんな病気?」では、社交不安症の全体像から、症状、不安の軽減法などについて、詳しく解説していきます。
第2回は、「緊張により不安症状があらわれる病気『社交不安症』」の続き、「社交不安症の症状」についてみていきます。
目次
社交不安症の症状
「失敗したくない」から不安になる
社交不安症の人は、相手に、自分が緊張していることや不安になっていることに気づいて、
「相手から嫌われてしまう」
など最悪のケースを常に考えてしまいます。
また、
などとネガディブな発想にとらわれ、不安を募らせます。
しかし、こうした不安は裏を返せば、
「いいところを見せたい」
「うまくやりたい」
というポジティブな気持ちの表れでもあります。
「どうだっていい」
「失敗してもいい」
と思っていたら緊張などしないわけです。
このように、
という気持ちが、結果的に不安につながってしまっているのです。
恐れる場面・状況はさまざま
社交不安症の人が恐れる場面や状況は、以下のようなものがあります。
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代表的なのは、人前に出て話をしたり、何かしらのパフォーマンスをすることです。
人前で発言をしなければならない場面では、自分の順番が回ってくる前から緊張してしまい、ドキドキして冷静になれません。
そして、いざ順番が回ってくると、顔は真っ赤、手も震えて、しどろもどろになり、考えがまとめられず、終わったあとには自分が何を言ったのかさえ分からなくなります。
こうした過剰な不安から、会議やプレゼンテーションに対して強い苦手意識を持ってしまい、仕事にも支障が出てしまいます。
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また、ちょっとした雑談が苦手、というケースもあります。
業務連絡は問題ないのですが、雑談のようにテーマが決まっていない会話のとき、何を話したらいいのか分からず困ってしまいます。
と思っているので、人と話したあとは、
「つまらない、おもしろくない人間と思われているのではないか」
など、クヨクヨ考えて強く苦しんでしまいます。
こうして、だんだんと人付き合いがつらくなり、職場で孤立したことを苦に退職してしまい、引きこもりに繋がるケースもあります。
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人の視線が極端に苦手という人もいます。
人から見られていると思うと緊張してしまうので、人と視線が合わないように、常に目をそらすようにしています。
また、人の視線が苦手という人の中には、自分が変だと思われていると考える人もいて、自分の服装や仕草がおかしので、他人に笑われたり、気味悪がられていると感じる人もいます。
大勢の人がいるところで、一人でいることも苦手です、
「友達がいないから一人でいる」と思われているような気がするからです。
何もしなくても他人が悪意を持って自分を見ているような気がしてしまいます。
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「書痙」という古い病名がありますが、これは結婚式などの受付で、他人が見ている前で自分の名前を書こうとすると、震えて字が書けないという人もいます。
最近では、他人の前でパソコンのマウスやキーボードの操作がうまくできない、という報告も増えてきています。
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そのほかに、
- お茶を出そうとすると茶碗を持つ手が震える
- 会食しているとお箸を持つ手が震える
などがあり、いずれも周囲に人がいないとうまくできる、というのが特徴です。
「失敗しないようにしよう」「上手にやろう」と思えば思うほどうまくいかず、その結果、自信を失って他人がいるところでは何もしたくないと思うこともあります。
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人の視線が苦手という人の中には、「自分が変だと思われている」と考える人もいます。
自分の服装や仕草などがおかしいので、他人から笑われたり気味悪がられていると感じます。
また、大勢の人がいるところで、一人だけでいることも苦手です。
と思われているような気がするためです。
何もしていなくても、他人が自分に対して悪意を持っているような気がするのです。
その結果、人が大勢いるところを避けて、買い物や外出もしたくなくなります。
社交不安で感じる不安・恐怖の例
●対人不安
家族など、ごく身近な人を除いて他人と関わることに強い不安を感じる社交不安症の基盤となる症状です。
他人に低く評価されるのではないかと不安を感じ、「自分がどのように見られているか」と他人を意識して緊張感を高めます。
- 他人との距離の取り方や、適切な距離感がわからない
- 自分以外の人はみんな仲良しに見える
- 一対一のコミュニケーションが苦手
●スピーチ恐怖
社交不安症でもっとも訴えが多い症状です。
会議での発言、結婚式のスピーチなど、人前で話すことに強いストレスを感じて、頭が真っ白になる、声が震えて話せなくなるなど、極度の緊張状態に陥ります。
●電話恐怖
静かな場所で自分の話していることを他人に聞かれるのをおそれ、電話に出られなくなります。
電話のベルが鳴っただけでドキドキしたり、受話器をとっても緊張で声がでなくなるなど、仕事に支障をきたします。
●会食恐怖
自分が食べているところを見られると思うと極端に緊張し、自分の食べる音が気になったり、美味しそうに食べられないのを気に病んだりします。
自分にとって大切な人の前ほど症状が強くなるため、恋人との食事などを避けるようになります。
●赤面恐怖
人と話すときに顔が赤くなる。自分の表情を気にしたり、顔のほてりを自覚するとますます赤くなります。
緊張して顔が紅潮するのは自然な反応ですが、社交不安症の場合、顔が赤いことを他人に指摘されたことがきっかけで赤面恐怖に陥ることがあります。
●視線恐怖
他人の視線を感じると「見られている気がする」「自分をみっともないと思っているのでは」などの苦痛を感じます。
また「自分の視線が他人に不快感を与える」と不安に思うこともあります。
●振戦恐怖
振戦とは体が震えること。人から見られると体が震えてしまいます。
来客にお茶を出したり、人前でキーボードを打ったりするときに手が震え、止めようとすればするほどひどくなります。
●腹鳴恐怖
おなかが空いたときや、食後すぐには、おなかの音(腹鳴)が出やすいものですが、社交不安症がある人の中には、会議や講習会など、静かな場所でおなかが鳴るのが心配でたまらないことがあります。
●排尿恐怖
一人で用を足しているときは症状がありませんが、職場や公衆トイレで他の人がいたり、後ろに人が並んでいたりすると、他人の存在が気になって排尿できなくなります。
早くしなければと焦るほどうまくいません。
●書痙
一人で文字を書くと平気なのに、人前だと緊張して手がブルブル震え、止めようとすればするほどひどくなります。
字が下手だと思われるのではないかという緊張感が背景にあります。
●発汗恐怖
緊張のあまり大量の汗をかく症状で、人と話すだけでしたたるほどの汗をかくなど、一般的な「緊張による汗」の範囲を大きく超えた汗に悩まされます。
●自己臭恐怖
若い人に多くみられる症状で、自分が変な匂いを発しているため、他人に嫌われていると思いつめたり、外出できなくなったりします。
本人は「自分はくさい」と思い込んでいますが、実際には臭わない場合がほとんどです。
生活に支障がでる
社交不安症の人は、
という自分の外見的な評価を心配して人の視線が気になったり、変に思われるのではないかと心配するあまり、人と会うことが苦痛になり、避けようとします。
しかし、人と接することなく暮らしていくのは難しいですし、人と会うのを避けようとすると日常生活にも支障が出てしまいます。
社交不安症の人は、
- 学校や職場に行けない
- 買い物に行けない
- 家から出られない
など、家から出られないというように生活に支障が出る場合が多くなります。
また、学校や職場に行ったとしても、友人を作ったり、人とコミュニケーションをとることが難しくなってしまいます。
人は誰でもある程度、他人の目が気になるものですが、社交不安症の診断がつく人は、日常生活に支障が出るほど、つらい思いをしています。
また、自信を失ってうつ病を併発したり、外出するのがつらくて引きこもりになってしまうケースもあります。
不安を知られたくない
社交不安症の根底には、
という強い思い込み(中核信念)があります。
そのため、例えば、人前で顔が赤くなったり、どもったり、手が震えるなどのような不安症状が出ると動揺してしまいます。
と思い込んでいるので、その時の赤面、どもり、震え、発汗などを隠そうとします。
そのため、俯いたり、目を合わせなかったり、口や顔を隠したり、震えないように手や足に力を入れたりしてしまいます。
このような行動を、「安全行動」と言います。
しかし、これらの安全行動が逆に他人の目を引いてしまうこともあります。
さらに、俯いたりすることで相手の動作や反応が見えなくなり、実際には相手がどんなリアクションをしているのかが分からないのに、
「あきれられている」
と思って不安や緊張がさらにひどく、長引くことになります。
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次回、「社交不安症の困り度チェック」へ続く。