「人前に出るのが苦手…」
「人がいるところで何かをするのが苦手…」
そんな風に感じている人は意外と多いものです。
なぜ「人が怖い」と感じてしまうのでしょうか?
社交不安症は、子どもや若者だけでなく、大人でもつらい思いをしている人が大勢いる病気です。
「社交不安症ってどんな病気?」では、社交不安症の全体像から、症状、不安の軽減法などについて、詳しく解説していきます。
第4回は、「社交不安症の困り度チェック」の続き、「社交不安症の基礎知識…① 背景と要因」についてみていきます。
目次
社交不安症の基礎知識…① 背景と要因
社交不安症には、元々の体質や育った環境など、たくさんの要因がありますが、なかでもご本人が「安心感」を持てるかどうかが、発症に大きく関わると考えられています。
また、社交不安症には、人前で恥ずかしい思いをしたという「きっかけ」のある人が多いようです。
中には幼いころから不安を過剰に感じやすい「不安体質」だった人もいます。
【背景】社会的な安心感が十分に育っていない
社交不安症を発症する原因は、はっきりとはわかっていませんが、ご本人の元々の体質(遺伝)や育った環境などが複合的に影響していると考えられています。
環境の中で、最も発症に関わるのが、「社会的な安心感の不足」です。
一番身近な存在である親から、
「あなたを大切に思っているよ」
というメッセージを受け取ることができないと、安心感や自尊心が育ちません。
自分を大切に思ったり好きになったりできず、不安定な「よるべない感じ(頼りにするところや人がいない感じ)」を抱えたままになってしまうのです。
2つ安心感が欠かせない
人が安心して過ごすためには、
- 生命の安心感
- 社会的な安心感
このどちらも欠かせません。
これらの安心感が、自分のことを大切に思う自尊心に繋がります。
社会的な安心感
人との関わりの中で、ほめられたり尊敬されたりする経験が、安心感を育みます。
特に小さな子どもの頃には、身近な大人、主に親との関わりが重要です。
幼少期に自分をしっかり受け止めてもらうと、外に向かっていく強さが育まれます。
生命の安心感
食事や住むところなどの生活の基盤が安定していて、健康や生命が脅かされる恐れがないことで、「生きることへの安心感」がしっかり育ちます。
逆に、極度の貧困や虐待などがあると、生命の安心感が持てないため、社交不安症に限らず、さまざまな問題を抱えることになります。
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この2つぼどちらかの安心感が欠けると、生命が脅かされたり、心が不安定になったりします。
育った環境が大きく関わる
社交不安症を発症しやすいのは思春期ですが、それまでの人との関わりや自尊心の育ちが、発症に大きく影響します。
周囲の人と関わる機会が少ない
親が人付き合いが苦手だったり、多忙だったりして、人とあまり会わない生活パターンになっていると、子どもはそれを当たり前だと思い、人との関わりが乏しくなります。
また、親が過保護な場合も、子どもが人と関わる経験を奪ってしまうため、社交不安症に発症しやすくなります。
愛情の行き違い
社交不安症の患者さんの親御さんの愛情が薄いというわけではなく、親の愛情表現と子どもの受け取り方に、ボタンの掛け違いがあり、きちんと伝えられていないケースが多いようです。
【要因1】人前で恥をかいた経験がきっかけになりやすい
社交不安症は、中学生くらいの時に、人前で恥ずかしい思いをしたことがきっかけになるなど、思春期に発症するケースがよく見られます。
その時の恥ずかしく、身の置き場のない気持ちと、周囲の注目を浴びる状況が強く結びついて、同じような状況になると強い恐怖を感じるようになります。
また、幼いころに発症することもあり、多くは性格のせいだと誤解しています。
性格だけで発症するさけではなく、元々不安を強く感じてしまう「不安体質」があり、成長とともに感受性が高まって、社交不安症を発症するのです。
育った環境も大きく影響しています。
発症には主に2つのルートがある
社交不安症を発症するのは、
- 小さいころから内気だった場合
- 恥ずかしい経験がきっかけになった場合
と、主に2つのルートがあります。
① 小さいころから内気だった
内気な性格で人見知りが強かった子どもが社交不安症になるケース。
ただ、内気な子どもが全て社交不安症になるわけではありません。
不安体質があった
不安に敏感、かつ過剰に感じてしまう「不安体質」だったケースです。
小さいころには内気に見えることもあります。
感受性が高い
不安体質や失敗の経験から、不安への感受性が高くなっていきます。
② ミニトラウマを経験する
「教科書を朗読する時に言葉が出ず笑われた」
など、注目の中で経験した失敗が心に深く刻まれ、同じような状況で過剰に反応するようになります。
このような「きっかけ」のある社交不安症の場合、元々の人見知りや内気な性格だったとは限りません。
【要因2】症状のかげに発達障害がある場合も
近年、社交不安症の患者さんの中に、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の人がかなり多いことが明らかになっています。
アメリカの研究では、社交不安症の患者さんのうち、半数にADHDの傾向がみられたという報告もあります。
特にADHDの中の「不注意型」と呼ばれるタイプで、社交不安症を合併していることが多いようです。
ADHDなどの発達障害があると、周囲の人に誤解されたり、言いたいことがうまく伝えられないなど、コミュニケーションが難しい画面が少なくありません。
人とうまく接したり、他人から褒められたりする経験が乏しいため、社会的な安心感が育ちません。
よって、対人関係への不安が強くなり、社交不安症を発症する可能性があるのです。
ADHDとの合併
ADHDの特徴である「多動性」「衝動性」「不注意」のうち、「不注意」の症状が強い人が、社交不安症の危険性が高いと言われています。
多動性衝動性優勢型
落ち着きがなく、じっとしていられないという多動性と、考えるより先に突発的に行動してしまう衝動性が強く出るタイプです。
混合型
いくつかの特徴を併せもっているタイプです。
不注意型(不注意優勢型)
集中力が弱く、悪気はなくても人から言われたことをすぐに忘れたり、ケアレスミスを繰り返したりします。
人から注意されることが多い
多動性や衝動性に比べて、不注意は発達障害と気づかれにくいため、本人のやる気の問題と誤解されやすく「なんでできないの」と注意されることが多くなります。
ケアレスミスを繰り返す
ADHDと気づかれないと、本人や周囲の人も特性にあった対応策を学ぶ機会がないため、不注意からくるミスを防ぐことができません。
自信を持ちにくく社交不安症になりやすい
叱られてばかりで自信を持つ機会が乏しい上、ミスを繰り返す自分をふがいなく感じます。
その結果、不安感を持ちやすくなり社交不安症に繋がると考えられています。
ADHDとのの薬で社交不安症も改善するケースも
もともとADHDがあり、社交不安症を併発している場合は、社交不安症の治療だけでは十分な効果が出ないため、ADHDの治療が進むと対人関係の難しさが緩和され、社交不安症の症状も改善します。
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次回、「社交不安症の基礎知識…② 原因」へ続く。