「統合失調症」という病気の名前を聞いたことはありますか?
病名は知っていても実際どんな病気なのか?
知らない方も多いのでないでしょうか。
統合失調症は、100人に一人が発症するとも言われている身近な病気です。
しかし、なぜ統合失調症は起こり、どのような経過をたどるのか?
知っているようで、実はあまり知られていないのが統合失調症です。
「統合失調症ってどんな病気?」では、統合失調症の全体図から、症状、治療などについて詳しく解説していきます。
第19回は、「治療はどのように行われるのか ④ 入院が必要になるケース・治療と退院まで」の続き、「急性期の治療 ① 抗精神病薬の種類と働き」についてみていきます。
目次
急性期の治療 ①
抗精神病薬でも薬物療法が中心
急性期の治療は、「抗精神病薬」を用いる薬物療法が中心となります。
統合失調症では、脳内の神経伝達物質のひとつであるドーパミンが過剰に放出されることで、幻覚・妄想・お興奮といった症状が起こると考えられています。
抗精神病薬は、脳内の過剰なドーパミンをブロックすることで急性期の症状を改善します。
抗精神病薬は、従来の「定型抗精神病薬」(第一世代)と、それを合わせて進化させた「非定型抗精神病薬」(第二世代)の2つに大きく分けられ、会わせて約30種類ほどの抗精神病薬が認可されています。
それぞれの効果や副作用が微妙に異なるので、医師は患者さんの症状に自らの経験や治療ガイドラインを照らし合わせて、一人ひとりに最も合った薬を選びます。
ただし、最初に服用した薬が必ずしも合うとは限らず、思うような効果が得られない場合や、副作用ばかりが強く出てしまう場合は、ある程度の試行錯誤が必要になります。
なお、抗精神病薬は、基本的に1種類の薬のみで治療を行うのが望ましいとされています。
かつての統合失調症の薬物療法では、鎮静を目的に何種類もの薬を大量に投与していた時代もありましたが、現在の薬物療法は、あくまでも患者さんの回復力が引き出されるようにすることが目的です。
できるだけ1種類の薬で、量についても効果が得られて副作が少ない用量に調整されます。
といった心配はありません。
薬物療法になくてはならない「抗精神病薬」
「抗精神病薬」は、脳内の過剰なドーパミンをブロックすることで急性期の症状を改善する薬で、主な作用は3つあります。
- 急性期の幻覚・妄想・興奮・混乱といった陽性症状を改善する
- 再発を防止する
- (薬によって)鎮静作用、陰性症状の改善、精神機能賦活作用など
定型抗精神病薬
「定型抗精神病薬」は、1950年代以降につくられた第一世代の抗精神病薬です。
現在の統合失調症の薬物療法では、「非定型抗精神病薬」を優先して使用するよう推奨されていますが、患者さんの症状によっては定型抗精神病薬を用いることもしばしばあります。
定型抗精神病薬は、ドーパミンを強力にブロックする作用を持ち、薬の種類によって、次の3つのタイプに分けられます。
- 幻覚・妄想・思考障害・自我障害などどいった陽性症状を抑える作用が強いタイプ
- 興奮・混乱・不安・焦燥感・攻撃性・衝動性などに対する鎮静作用が強いタイプ
- 意欲や活動性を高める精神機能賦活作用が強いタイプ
(1)のタイプには、
- 「ハロペリドール(商品名:セレネース)」
- 「フルフェナジン(商品名:フルメジン)
- 「ブロムペリドール(商品名:インプロメン)」
などがあります。
これらの薬は、急性期の激しい陽性症状にはよく効きますが、ドーパミンの働きが過度に抑えられるため、「錐体外路症状」と呼ばれる運動系の副作用が高頻度でみられます。
なお、ハロペリドールとフルフェナジンには内服薬の他に、注射薬であるデポ剤(特攻性抗精神病薬)もあります。
(2)のタイプの代表は、
- 「クロルプロマジン(商品名:コントミンなど)」
- 「レボメプロマジン(商品名:レボトミン、ヒルナミンなど)」
- 「プロペリシアジン(商品名:ニューレプチル)」
などがあります。
気分を落ち着かせ、不安感や恐怖心をやわらげるとともに、寝つきをよくする作用もあります、
(3)のタイプには、
- 「スルピリド(商品名:ドグマチール、ミラドール、アビリットなど)」
- 「モサブラミン(商品名:クレミン)」
があり、うつ状態を改選したり、意欲を高めたりして、気持ちが前向きになるのを助けます。
(※錐体外路症状…筋緊張が持続的に異常に亢進し全身がくねくね動くような反復する運動や異常な姿勢を来す症状のこと。首や体幹、胸郭、肘、手首、指などが過度に曲がったり、ねじれたりする。
非定型抗精神病薬
「非定型抗精神病薬」は、1990年代以降に発売された第二世代の抗精神病薬です。
第一世代の定型抗精神病薬には、幻覚・妄想・興奮などの陽性症状を強力に抑える作用がありますが、陰性症状や認知機能障害の改善効果はあまり期待できません、
また、錐体外路症状などの副作用が問題となっていました。
そこで、定型抗精神病薬の欠点を解消するために開発されたのが、非定型抗精神病薬です。
非定型抗精神病薬は、陽性症状に対しては従来の定型抗精神病薬と同等の効果を持ち、かつ陰性症状や認知機能障害にも一定の改善効果が期待できます。
また、定型抗精神病薬はにみられるような副作用の比較的少なく、現在は統合失調症の薬物療法の第一選択薬となっています、
非定型抗精神病薬は、作用機序の違いから、
- SDA
- MARTA
- DSS
の3つに大きく分類されます。
SDA
「SDA」とは、「セロトニン・ドーパミン遮断薬」のことで、脳内のセロトニンとドーパミンの受容体の働きを遮断する作用があります。
ドーパミンを抑えることで陽性症状を改善し、セロトニンを抑えることで脳の前頭葉(脳全体を制御している部位)のドーパミンを活性化し、陰性症状を改善します。
- リスペリドン(商品名:リスパダールなど)
- ペロスピロン(商品名:ルーランなど)
- ブロナンセリン(商品名:ロナセン)
MARTA
「MARTA」は、「多元受容体作用抗精神病薬」といい、セロトニンやドーパミンだけでなく、さまざまな神経伝達物質の受容体を遮断します。
SDAと同様に、前頭葉のドーパミンを活性化することで陰性症状にも効果が示されています。
- クエチアピン(商品名:セロクエルなど)
- オランザピン(商品名:ジプレキサなど)
- クロザピン(商品名:クロザリル)
DSS
「DSS」とは、「ドーパミン部分作用薬」のことで、ドーパミンが過剰に放出されているところでは抑制し、不足しているところでは放出するように働きます。
ドーパミンのバランスをとることで陽性症状と陰性症状を改選します。
- アリピプラゾール(商品名:エビリファイなど)
次回、「急性期の治療 ② 抗精神病薬の副作用と補助的に使用する薬」へ続く