「統合失調症」という病気の名前を聞いたことはありますか?
病名は知っていても実際どんな病気なのか?
知らない方も多いのでないでしょうか。
統合失調症は、100人に一人が発症するとも言われている身近な病気です。
しかし、なぜ統合失調症は起こり、どのような経過をたどるのか?
知っているようで、実はあまり知られていないのが統合失調症です。
「統合失調症ってどんな病気?」では、統合失調症の全体図から、症状、治療などについて詳しく解説していきます。
第2回は、「原因不明の精神疾患『統合失調症』」の続き、「統合失調症の発症要因とは」についてみていきます。
目次
統合失調症の発症要因とは
さまざまな要因が絡み合い発症する
統合失調症は、脳に何らかのトラブルが起こり、脳に機能障害が生じる病気です。
では、何らかのトラブルとは何なのか?
トラブルの原因は?
実は、根本的かつ確定的な原因は、現在のところわかっていません。
しかし、原因は1つではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合って病気を発症すると考えられています。
その1つが、「遺伝的な要因」です。
統合失調症が偏見を持たれる理由の1つに、「統合失調症は遺伝病」という誤解があります。
そのため、「統合失調症は遺伝するのではないか」と心配される方も多いかと思います。
確かに、統合失調症の人の家族歴をみると、同じ家系に複数の患者さんが見つかることがあります。
その一方で、遺伝子が同じである一卵性双生児が、2人とも統合失調症を発症する確率は48%といわれています。
これが二卵性双生児になると17%に下がり、統合失調症の親から生まれた子どもでは13%と、遺伝の影響はさらに低くなります。
遺伝がリスクを高めることはありますが、それが全てではない、ということです。
統合失調症に関する遺伝子はいくつか報告されていますが、果たしてどの程度関連しているのか、研究者たちの見解はまちまちで、確定的な遺伝子はまだ見つかっていません。
統合失調症にかかわる遺伝子を受け継いでいても、病気を発症するとは限らず、さらなる要因が加わらなければ、一生発症せずに済むことも多い、ということです。
統合失調症の発症には、遺伝以外に、
- 脳内物質の変調
- ストレス
- 環境的な要因
などがかかわっているのです。
脳内物質の変調
これまでの研究から、統合失調症の発症には「脳内物質(神経伝達物質)の変調」が大きく関わっていることがわかっています。
脳内では無数の神経伝達物質がネットワークを作り上げ、思考や感情のなどの情報を伝え合っています。
この情報伝達に重要な役割を果たしているのが「神経伝達物質」です。
神経伝達物質同士が情報を伝え合うときは、一方の神経細胞から神経伝達物質が放出され、もう一方の神経細胞の受容体がこれを受け取ることえで情報伝達が行われます。
神経細胞と神経細胞の連結部分は「シナプス」と呼ばれ、神経細胞同士はぴったりとくっついているわけではなく、わずかな隙間があります。
この隙間を「シナプス間隙」といい、シナプス間隙を神経伝達物質が行き交うことで、脳は高度な情報処理を行っています。
神経伝達物質には様々な種類が発見されており、それぞれに異なる働きを持っています。
なかでも、統合失調症と特に関係が深いとされているのが「ドーパミン」です。
ドーパミンは、
- 感情
- 注意
- 意欲
- 認知機能
- 運動調節
などにかかわる物質で、気持ちを興奮させたり、緊張させたりする働きがあります。
統合失調症では、ドーパミンが過剰に放出されることによって、異常な興奮や緊張が起こり、注意力や集中両が低下します。
また、気にしなくてもいいことが常に気になったり、頭の中にいろいろな考えがわきおこったりするため、これらが幻覚や妄想を誘発するのではないかと考えられています。
最近では、ドーパミンだけではなく、セロトニン、グルタミン酸、GABA(ギャバ)など、さまざまな神経伝達物質の変調が統合失調症にかかわっていることもわかっています。
ストレス
ストレスが心身に影響を与えることはよく知られていますが、統合失調症も例外ではありません。
統合失調症は、進学や就職といったライフイベント後に発症しやすいことが知られています。
環境が大きく変わるライフイベントは、それだけでも大きなストレスになり、それが統合失調症の発症に何らかの影響を与えているのは確かなようです。
しかし、ストレスを受けたからといって、誰もが統合失調症を発症するわけではありません。
ストレスを上手く乗り超えられる人もいれば、そうでない人もいます。
統合失調症の発症には、ストレスの有無や大きさだけではなく、その人自身の「もろさ(脆弱性)」がかかわってくる、ということです。
そこで、統合失調症とストレスとの関係を説明する際によく用いられる学説に、「ストレス脆弱性モデル」という理論があります。
統合失調症は、「ストレスに対するもろさ(脆弱性)」を持っている人が、一定以上のストレスを受けたときに発症する」という考え方です。
ここで言う、「ストレスに対するもろさ」とは、気持ちや心が弱いという意味ではなく、統合失調症という病気になりやすい素質、「脳の脆弱性」を意味します。
そこには、脳内物質の異常や脳の構造的な変化などが考えられます。
では、ストレス脆弱性はどのようにしてつくられるのでしょうか。
これは、遺伝的な要因に加え、胎児期を含むこれまでの人生における環境的な要因が重なることにより、脆弱性が形成されるといわれています。
ストレス脆弱性を抱える人は、日々の慢性的なストレスに耐えうる力も弱いものです。
そこへ、ライフイベントのような大きなストレスが加わり、その人のストレス耐性の限界を超えた時、統合失調症を発症すると考えられています。
環境
統合失調症は、遺伝やストレスだけで発症するわけではありません。
統合失調症の発症には、環境も影響していると考えられています。
1つに、統合失調症の患者さんでは、胎児期に母親に何らかの感染症や中毒があったり、出産時に難産であったりした割合が高い、といわれています。
また、統合失調症の患者さんは、出産時に低体重であった頻度が一般よりも少し高いといわれています。
妊娠中の低栄養や飲酒、喫煙などは低体重の原因になることから、これらは胎児の脳の発達に何らかの影響を及ぼす可能性があるといえます。
もう1つ、統合失調症には、感染症との関係も指摘されています。
統合失調症は、冬から早春にかけて生まれた人に多いことが知られており、冬期はウイルス性の感染症が流行しやすいことから、母親が妊娠後期に何らかのウイルスに感染することで胎児の脳にも影響が及び、のちに統合失調症の発症に関係してくるのではないかと推定されています。
実際、インフルエンザなどのウイルス性疾患が流行した年に生まれた人に、統合失調症の患者さんが多いとする報告もあります。
一方、「環境」というと家庭環境、すなわち「親の育て方に問題があるのではないか」と思われがちですが、幼児期の虐待など極端なケースは別として、育て方や親子関係が大きく影響することはありません。
その他にも、都市部で生まれ育った人は、地方都市で生まれ育った人に比べて統合失調症の発症率が高い、という報告もありますが、はっきりとした理由はわかっていません。
小児期、思春期以降の環境としては、アルコールや大麻、覚せい剤の乱用とともに、喫煙お統合失調症のリスクを高めるという指摘もあります。
① 胎児期
母体のウイルス感染、低栄養、飲酒、喫煙など
② 出産時
出産時の難産、低体重など
③ 小児・思春期
アルコール、大麻、覚せい剤の乱用、喫煙など
④ 生まれ育った場所
地方で生まれ育った人に比べ、都市部で生まれ育った人の発症率が高いという報告がある
(はっきりとした理由はわかっていない)
次回、「統合失調症の発症から予後」へ続く