「統合失調症」という病気の名前を聞いたことはありますか?
病名は知っていても実際どんな病気なのか?
知らない方も多いのでないでしょうか。
統合失調症は、100人に一人が発症するとも言われている身近な病気です。
しかし、なぜ統合失調症は起こり、どのような経過をたどるのか?
知っているようで、実はあまり知られていないのが統合失調症です。
「統合失調症ってどんな病気?」では、統合失調症の全体図から、症状、治療などについて詳しく解説していきます。
第7回は、「統合失調症の特徴的な症状」の続き、「急性期に多くみられる『陽性症状』」についてみていきます。
急性期に多くみられる「陰性症状」
「幻覚」と、その例
実際にはないものをあるように感じることを「幻覚」といいます。
幻覚は、急性期に現れる陽性反応の1つで、統合失調症を代表する症状でもあります。
私たちは外部からの刺激を感覚器(目、鼻、耳、舌、皮膚など)でキャッチして、その情報を脳内で処理して、感覚(資格、臭覚、聴覚、味覚、触覚)として認識しています(知覚)。
しかし統合失調症になると、外部からの刺激がないにも関わらず、知覚が動きさすことがあります。
これが「幻覚」です。
幻覚には、
- ないものが見える「幻視」
- ない音が聞こえる「幻聴」
- 嫌な匂いや味を感じる「幻嗅」・「幻味」
- 何も触れていないのに体に異様な感覚を感じる「幻触」・「体感幻覚」
などがありますが、中でも統合失調症によくみられるのが「幻聴」です。
統合失調症の幻聴でよく聞こえてくるのは、多くが他人の声です。
しかも、その内容は自分に対する悪口、批判、からかい、うわさなどの不愉快なものであることが多く、一人だけの声の時もあれば、「対話性幻聴」といい複数の人が自分について話をしている声が聞こえる場合もあります。
また、
- 自分の行動や思考に逐一注釈をつけてくる「注釈幻声」
- 自分の考えていることが声になって聞こえてくる「考想化声」
- 「~しろ」「~するな」と命令するような声が聞こえる「命令性幻聴」
などがあります。
命令性幻聴の内容には、「食べるな」「眠るな」といったものがありますが、「電車に飛び込め」「あいつをナイフで刺せ」など、自分や他者を傷つけようとするものもあります。
幻聴の声は、強い呪縛力をもって感じられるため、命令に従ってしまうこともあるため注意が必要です。
- 「幻視」
人、物、動物、風景なのが目の前にくっきりと見える。時には頭の中や自分の背景に見えることもある。また自分の姿が見える「自己現像視」などもある - 「幻聴」
普通の会話と同じように「声」が聞こえる。人によっては「テレパシー」や「電波」、「頭の中に受信機が埋め込まれている」など - 「幻嗅」・「幻味」
不快に匂いや味を感じることが多く、「毒を盛られた」「毒ガスにやられた」などと思い込む被害妄想と結びつきやすい - 「幻触」・「体感幻覚」
「しびれる」「くすぐったい」「誰かになでられている・さすられている」「皮膚の上を虫が這っている」などと感じる。「体内に寄生虫がいる」と訴えることもある
- 対話性幻聴
複数の人が自分について会話している声が聞こえる。
「○○(本人の名前)は罪深い奴だ」
「まったくだ。生きている価値などない」 - 注釈幻声
自分の行動を実況中継するような声が聞こえる。
「今、テレビをつけたな」
「今、福を着替えようとしているな」 - 考想化声(思考化声)
自分の考えたことや思ったことが聞こえる。
(コンビニのレジで)「今日の店員は美人だな」
(鏡の前で)「太っているな。少しは痩せろ」 - 命令性幻聴
何らかの命令をしてくる声が聞こえる。
「屋上から飛び降りろ」
「あいつを殴れ」
「妄想」と、その例
統合失調症の陽性反応として、幻覚とともによくみられるのが「妄想」です。
妄想とは、ありえないことを事実だと強く確信している状態をいいます。
思い込みや考え違いというのは、誰もが日常的に経験しているものです。
例えば、
と思っていても、周囲の人が、
と説得することで、
と考えを訂正できるものは妄想とはいいません。
統合失調症の妄想は、訂正不可能で、かつ周囲がどんなに説得・説明しても、本人はそれを受け入れることができません。
こうした妄想にはいくつかのパターンがあり、統合失調症でよくみられるのは、
- 被害妄想
- 誇大妄想
です。
「被害妄想」とは、「人に嫌われている」「危害を加えられている」など、何らかの被害に遭っている確信する妄想をいいます。
被害妄想には、以下のように様々なバリエーションがあります。
- 注察妄想
いつも誰かに見られている、監視されていると思い込む - 追跡妄想
警察などに尾行されていると思い込む - 迫害妄想
ある団体や組織などに追われている、迫害を受けていると思い込む - 嫉妬妄想
根拠もないのに妻(夫)や恋人が浮気していると思い込む - 関係妄想
些細な出来事や偶然、テレビや新聞が報じる時間などを自分と結びつけてしまう - 被毒妄想
食べ物などに毒を盛られたと思い込む - 物盗られ妄想
自分の持ち物を盗まれると思い込む - 被支配妄想
自分の思考や感情、行動が密かに支配されていると思い込む
一方、「誇大妄想」とは、自分の能力や価値を異常なまでに過大評価してしまう妄想です。
- 自分は皇族などに特別な血筋だと思いむ「血統妄想」
- 著名人から愛されていると思い込む「恋愛妄想」
- 自分は神の啓示を受けた選ばれし者だと思い込む「宗教妄想」
などがあります。
誇大妄想に被害妄想を伴うことも多く、
「自分は大スターの恋人なので、いつもマスコミに追われている」
などと思い込むことがあります。
誇大妄想には、以下のように様々なバリエーションがあります。
- 血統妄想
自分は皇族や貴族など高貴な出自だと思い込む - 恋愛妄想
自分は著名人から愛されていると思い込む - 発明妄想
自分は大発見や大発明をしたと思い込む - 宗教妄想
自分は神の啓示を受けた選ばれし人間、キリストの生まれ変わりなどと思い込む
その他の妄想は、以下のようなものがあります。
自分の能力や価値を実際より低く評価し、劣っていると思い込む妄想が「微小妄想」です。
微小妄想には、以下のようなバリエーションがあります。
- 貧困妄想
財産を失ってしまったと思い込む - 罪業妄想
大変な罪を犯してしまったと思いむ - 心気妄想
- 疾病妄想
自分は神の啓示を受けた選ばれし人間、キリストの生まれ変わりなどと思い込む - 否定妄想
自分の存在や価値、製紙までも否定してしまう
健康を害してしまったと思い込む
自分の身体が変わってしまったと思い込むのが「身体妄想」です。
身体妄想には、以下ようなバリエーションがあります。
- >憑依妄想
悪魔やキツネなどにのりうつられたと思い込む - 変身妄想
自分が他の何か他のもの(動物や植物など)に変われると思い込む
幻覚・妄想による興奮や昏迷、暴力や攻撃性
統合失調症の急性期には、興奮や暴言、暴力、攻撃性が強く現れることがあります。
これらの症状は、幻覚や妄想が引き金になって起こることが少なくありません。
幻覚や妄想は、本人にとっては、「現実に起こっている」ことです。
そのため、
「狙われている」
といった被害妄想は、不安や恐怖を引き起こします。
また、自分の悪口を言う声や、バカにする声には、激しい怒りを覚えることもあります。
不安や恐怖から逃れようとして、または怒りの感情を抑えられなうなった時に、興奮して暴れたり、暴力的・攻撃的になったりすることがあります。
また、幻聴の命令や妄想に従い、衝動的に他人を傷づけようとすることもあります。
ただし、相手に大けがを負わせたり、命に関わるような深刻な暴力は、適切な治療を受けていればめったに起こりません。
ニュースになるような事件は、治療を受けていないか、治療の中断によるものがほとんどで、非常にまれなケースです。
一方、相手に怪我を負わせるほどではない、比較的軽い暴力や暴言は、家族と同居している若年層に多くみられ、暴力や暴言は、主に同居する家族い向けられます。
本人の心の奥底には、自分を理解して欲しい、受け入れて欲しいという欲求があり、それがままならないと感じた時に暴力や暴言といった攻撃性となって現れることがあります。
また、「緊張病性症状」といって、落ち着きがなくなり、じっとしていられなくなる異常な興奮と、周囲からの働きかけに無反応になるこっ名を繰り返すこともあります。
このようなタイプは、かつての分類では「緊張型」と呼ばれていましたが、治療法が進んだ近年は、あまり見られません。
次回、「『思考障害』と『自我障害』」へ続く