突然ですが、あなたは「性格が全く違う人みたい」と言われたことはありますか?
誰でも気分の浮き沈みがあるものですが、5分前の本人とは全く違う人格になっている…。
このように、人格が交代することで生じる障害を「解離性同一症(または解離性同一性障害)」と言います。
今回はそんな「解離性同一症」を詳しくみていきます。
目次
解離性同一症とは?
解離性同一症とは、
かつては「多重人格障害」と呼ばれていた精神障害で、一人の人物の中に2つまたはそれ以上の全く別の性別、性格、記憶を持つ複数の人格がコントロールされた状態で交代して現れるもの。
解離性同一症を抱える人は、交代した人格に気づいていることもあれば、全く知らずにいることもあります。
日々の出来事や個人情報、トラウマになった出来事やストレスになる出来事など、普通なら簡単に思いだせるはずの情報を思い出すことができません。
患者本人の中に、本人以外の「誰か」がいると、その交代人格が、本来のその人では考えられないような言動をします。
本人の記憶がない期間は、交代人格が現れていると考えられます。
人格の交代には、軽度から重度の段階があります。
軽度では、読書にふけっていて他人からの呼びかけに気づかないことなどがあてはまります。
段階が進み重度になると、交代人格の役割や行動、出現する時間が増えて、人格の深みが増していきます。
一方、本人の記憶は途切れ、同一性が保たれなくなります。
解離性同一症の症状は?
解離性同一症には、典型的な症状がいくつかあります。
健忘
健忘には次のようなものがあります。
- 過去の個人的な出来事についての記憶の空白
…小児期や青年期の一定期間の出来事を思い出せない - 現在の日々の出来事、習熟した技術の度忘れ
…パソコンなどの使い方を一時的に忘れるなど - 記憶にないことを自分がやったという証拠の発見
一定期間の記憶が欠落していることに、本人が気づいていることもあります。
健忘が発生したあとに、見覚えのない物を押し入れの中で見つけたり、覚えのない手書きのメモ書きなどを見つけたりすることがあります。
また、最後に覚えている場所とは違う場所にいて、なぜ、どうやってそこにたどり着いたのか見当がつかないこともあります。
このように、解離性同一症では、自分がしたことを覚えていなかったり、自分の行動変化を説明できなかったりします。
複数の人格
解離性同一症で現われる人格には、2つのタイプがあります。
憑依型
明らかに普段と異なる言動がみられ、別の人間や存在が乗り移っているようにみえるため、別の人格の存在が、家族や第三者にも明白になります。
非憑依型
傍目からは別の人格の存在は明白ではありません。
このタイプの人は、別人が乗り移っているかのように振る舞うのではなく、自分が出演している映画を見ているなど、自分がさまざまな要素から切り離されているように感じることがあります(離人感)。
いくつかの人格がお互いの存在を知っていて、人格間でやりとりがあるようにみえる場合もあります。
また、怒っている別人格のせいで、職場で突然、同僚や上司を怒鳴りつけたりするなど、解離性同一症では、別の人格、声、記憶などが日々の活動に侵入してくる経験をすることもあります。
その他の症状
解離性同一症の人は、他の精神障害や身体疾患に似た症状を訴えることがあります。
- 頭痛
- 抑うつ・気分の落ち込み・不安
- 自傷行為・物質乱用・自殺行為
- 幻覚
解離性同一症の原因は?
解離性同一症は、小児期に圧倒的なストレスや心的外傷(トラウマ)を経験した人に発生すると言われています。
アメリカ、カナダ、欧州では、約90%が小児期にひどい虐待やネグレクトを受けていたという報告があります。
人格の発達過程にある小児期に性的虐待や身体的虐待を受けると、単一の人格を形成する能力に影響が生じます。
苦痛によって精神が壊れてしまわないように、虐待を受けている子どもは、生きていく上で経験するさまざまな感情、知覚、記憶を隔離するようになり、虐待から逃げ出したり、残酷な環境から自分を引き離したり、自分の殻に引きこもったりすることで、虐待から回避する術を覚えるようになります。
そして、それぞれの段階やトラウマ体験によって、別の人格が形成されます。
他人からみると外見は同じ人なのに、別の人格がその時々で現れ、性格や口調、筆跡までもが異なります。
解離性同一症の治療法は?
解離性障害の治療法は↓
解離性障害とは?③ ~回復には長い期間が必要…解離性障害の治療法~
解離性同一症は、発症の原因や進行過程などが研究途上のため、はっきりとした治療法が現時点では確立されていません。
治療は長く困難なものになりますが、精神療法やカウンセリング、薬物療法が用いられる場合があります。
精神療法・カウンセリング
解離性同一症の治療目標は、複数の人格を一つに統合することです。
しかし、必ずしも成功するとは限らず、統合が難しい場合は、複数の人格同士の関係に協調性をもたせ、正常に役割を果たせる状態にすることを目標にします。
環境を整える
安心できる居場所を確保するため、学校や家庭など、強いストレスがある場所から遠ざけます。
安全な場所が確保できない場合は、入院を検討することもあります。
医師との信頼関係
患者は、これまで自分の体験や話を聞いてもらえないことが多かったため、まずは丁寧に話を聞き、「大丈夫」という言葉を聞かせることで安心させます。
まずは信頼関係を築くことから治療を始めます。
カウンセリング
カウンセリングなどの精神療法は、治療中にトラウマ経験の記憶がよみがえって生じる絶望感から、何度も精神的な危機的状況に陥る恐れがあります。
つらい時期を乗り越え、苦痛に満ちた記憶に向き合えるようになるまでには、継続的なサポートとモニタリングが必要になります。
また、患者本人も自分で「治そう」という意識が大切です。
本人がしてはいけない事
- 解離性同一症に関する書籍や雑誌などを読んだり、テレビ番組を見たりする(影響を受けやすいため)
- 宗教的、オカルト的なものに接触する
- 入院・転院先などで他の解離の患者さんとの距離が近すぎる関係をもつ
- 飲酒、薬物に手を出す
周囲の人がしてはいけない事
- 解離性同一症に関する書籍や雑誌などを読みすぎたり、テレビ番組を見すぎたりして、患者と解離の世界に入り込む
- 交代人格の年齢や性別、性格、経過を詳細に記録し、その同一性について確認することに一生懸命になりすぎる
- 交代人格を無視したり、気づかないふりをする
薬物療法
薬物療法は、不安や抑うつなどの特定の併存症状を改善させることはありますが、解離性同一症自体に効果を示すことはありません。
薬を使った方がいいかどうかは、患者の状態をよく見極めて処方されます。
- 抑うつには
…死んでしまいたい、憂鬱でしかない、などの不安や抑うつには、抗うつ薬や不安薬が用いられる。交代人格に攻撃性・衝動性のある人格がいる場合は、慎重に検討する。 - 衝動性には
…少量の抗精神薬や気分安定薬が効果的。 - リアルな夢や悪夢に苦しむときは
…鎮静効果のある抗うつ薬や抗不安薬を用いる。効果がない場合は、抗精神薬を用いる。
解離性同一症まとめ
周囲の人を驚かせるような激しい症状が出ることもある解離性同一症。
本人や周囲の人は悲観的になりがちですが、解離性同一症はきちんとした治療を続ければ改善する病気です。
また、ある程度年齢を重ねると次第に数が減ってくるため、本人や周囲が「治る病気」と希望を持って対応していきましょう。
参考:
MSDマニュアル家庭版,解離性同一症,David Spiegel,2017年7月
解離性障害のことがよくわかる本 影の気配におびえる病(健康ライブラリーイラスト版)Kindle版,柴山雅俊,講談社,2012/5/16