うつ病になる人は年々増えていると言われており、厚生労労働省の調査では、日本の潜在的なうつ病患者の人数は600万人を超えると言われています。
おおよそ15人に1人はうつ病の経験があることを考えると、誰もがうつ病になる可能性があるとも言えます。
うつ病患者が増えている背景には、成果主義による職場環境の厳しさ、ソーシャルネットワークが広がる一方で、直接的な人間関係が希薄かつ複雑化していること、家族の多様化などが挙げられています。
一般的にうつ病の特徴として、
- 落ち込んでいて好きなことも楽しめない
- 不眠
- 食欲がなくなる
- 朝は調子が悪く、夕方以降に回復する
などがあります。
しかし近年、これらの症状には当てはまらない新しいタイプのうつ病が、若い世代に目立つようになっています。
「典型的なうつ病とは異なる」という意味合いから「非定型うつ病」と呼ばれています。
非定型うつ病には、いわゆる『うつ病の常識』があてはまりません。
病気自体、まだあまり知られていないこともあり、患者さんの言動が誤解を受けがちで、「気まぐれ」「わがまま」「なまけ者」「自分勝手」「気分屋」など言われてしまいます。
しかし、そう言われた本人は、傷つき、病気がさらに悪化してしまうこともあるのです。
「非定型うつ病ってどんな病気?」では、まだまだ理解が不十分とも言われている「非定型うつ病」とは、どんな病気なのか?その症状や治療法などを紹介していきます。
目次
最近明らかになったニュータイプ「非定型うつ病」
最近のうつ病事情
前述の通り、日本のうつ病患者は年々増え続けていますが、うつ病がありふれた病気であることが知られるようになり、以前に比べて精神的にかかることへの抵抗感が薄れたことも、患者さんの増加につながっていると言われています。
ただし、うつ病と診断されても、きちんと治療を受けている人は、全患者のうち1割に満たないという報告もあります。
また、最近のうつ病の傾向として挙げられるのが、「多様化している」ということです。
これまでのうつ病は、自分を責めて、良いことがあっても気分が晴れず、あらゆることに興味や意欲を失って、重苦しい気分が続く病気と考えられてきました。
これは「定型うつ病」(メランコリー型うつ病)の場合です。
しかし、最近明らかにされた「非定型うつ病」には、これらの病態があてはまらず、治療も異なります。
「非定型うつ病」は、専門家の間でもその存在が十分に知らされているとは言えないため、患者さんは単にうつ病と診断されたり、双極性障害(躁うつ病)、パーソナリティ障害、時には単純にわがままな性格と誤解されることも多いようです。
しかし、正しく診断されなければ、治療法も適切なものにはなりません。
病気がこじれて長引いてしまうことにも繋がります。
現在の社会状況もあり、うつ病が話題になり、「職場うつ」「プチうつ」などの言葉が広がるなど、うつ病のイメージ自体が軽くなっている印象がありますが、うつ病はきちんと治療を受けずに放置したり、拗らせたりすると、自殺に至るこわい病気です。
うつ病を軽く見ず、正しく理解することが大切です。
また、うつ病はいろいろな種類があり、治療法はそれぞれに異なります。
治すためには早期発見、早期治療が大切なのです。
いろいろな種類があるうつ病
うつ病は、気分の落ち込みや意欲の減退などを基本症状とする、
です。
医学的には「気分障害」と呼ばれていて、いくつもの種類があります。
現在その分類は、精神医学分野の世界基準になっている「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」によって行うことが主流になっています。
DSM-5では、気分障害が大きく2つに分けられます。
その2つとは、「抑うつ障害群」と、抑うつ状態と躁状態の両方が起こる「双極性障害(躁うつ病)」です。
「定型うつ病(メランコリー型うつ病)」と、「非定型うつ病」は、両群にみられます。
また、症状の数は少ないものの、憂うつ状態が慢性的(2年以上)続く場合は、「気分変調症」や気分循環性障害。
冬にうつがきて夏に向かって躁状態になる「季節性うつ病」。
出産前後の母親にみられる「周産期うつ病」など、大多数の人は自然に症状がおさまりますが、症状が長引いたり重くなった場合は治療の対象になります。
うつ病の3~4割が「非定期うつ病」?
「非定型うつ病」は、1959年、イギリスの研究者が、モノアミン酸化酵素阻害薬(以下、MAОI)のイプロニアジドという薬が劇的に効くうつ病グループについて報告してから、その存在が知られるようになりました。
そのグループには、うつ病治療によく使われる三環系抗うつ薬があまり効かず、症状も従来のうつ病とは異なる特徴がありました。
その後、研究が進み、精神疾患の診察マニュアルDSMでは、第4版(1994年発表)になって、初めて「非定型うつ病」が記載されました。
このように、非定型うつ病は病気として認められたのがごく最近で、まだ正しい診断が十分行われていないのが現状です。
非定型うつ病の研究が進んでいる欧米でも、定型うつ病については74%の医師が正しく診断していますが、非定期うつ病をしっかり診断できた医師は34%に過ぎないという報告もあります。
日本でも、単に「うつ病」と診断されている患者さんはかなりみられ、この場合、行われるのは定型うつ病向けの治療になりますが、それでは非定型うつ病はなかなかよくなりません。
さらに、うつ病以外の病名がつけられる場合もあります。
境界性パーソナリティー障害、心因反応、抑うつ神経症、ヒステリーなど…誤った診断のもとで、治療がうまくいっていない患者さんの中には、非定型うつ病の方がかなり含まれている可能性もあります、
非定型うつ病は、時代と共に増えてきていると考えられるのです。
では、現在非定型うつ病の人はどれくらいいるのでしょうか。
医療機関を受診しているうつ病患者を調べたものと、一般市民のなかのうつ病の人を調べたもの、2種類の調査報告がありますが、この調査によると、抑うつ障害群疾患者の中の非定型うつ病は31%、一般市民では26%という割合でした。
また軽度の躁うつ病(双極性障害Ⅱ型)の人を対象にした調査では、全体の50%以上が、実は非定型うつ病だったという結果も出ています。
ただし、軽いうつ病が慢性的に続く気分変調症を対象とした調査がまだないため、今後調査が進めば、さらに高い割合を占めると予想されます。
実際、臨床に携わる医師からは、全うつ病の4割前後が、診断基準を満たす非定型うつ病で、診断基準を満たさないものの、非定型うつ病的な状態にある人を加えると、6割前後に上る、という声もあります。
非定型うつ病は、ごく一部の人にみられる特殊な病気ではないのです。
次回、「“定型うつ病”と“非定型うつ病”はどうこがどう違うのか?」へ続く