うつ病になる人は年々増えていると言われており、厚生労労働省の調査では、日本の潜在的なうつ病患者の人数は600万人を超えると言われています。
うつ病患者の中でも、最近増え始めていると言われているのが「非定型うつ病」と呼ばれるニュータイプのうつ病です。
「非定型うつ病ってどんな病気?」では、専門家でも理解が不十分とも言われている「非定型うつ病」とは、どんな病気なのか?その症状や治療法などを紹介していきます。
第13回は、「自己愛の強さと非定型うつ病」の続き、「脳内の変化とうつ病 ① 神経伝達物質の働き」をみていきます。
目次
脳内の変化とうつ病 ① 神経伝達物質の働き
現在、うつ病の時の脳内メカニズムが少しずつ解明されてきています。
その中でも、セロトニンなどの神経伝達物質はとても重要で、その働きの低下がうつ病と深く関わります。
定型うつ病ではセロトニン、ノルアドレナリンが不足する
うつ病は、「脳の調子を崩す」病気ですが、では具体的に脳のどの部分の具合が悪くなるのでしょか?
近年、脳の研究が進み、うつ病の時に脳の中でどのようなことが起こっているのかが少しずつ明らかになってきています。
一つは、脳内にある神経伝達物質との関係です。
神経伝達物質とは、脳の神経細胞の間を行き来して情報を伝達する、メッセンジャーのような働きをする物質です。
脳には少なくとも、1000億の神経細胞(ニューロン)がありますが、それぞれが離れて島のように存在しています。
そこで神経細胞は、先端にある突起のようなシナプスから情報伝達物質を放出し、別の神経細胞の受容体(レセプション)がそれを受け取ることで情報のやり取りをしています。
神経伝達物質には、
- ドーパミン
- セロトニン
- ノルアドレナリン
- アセチルコリン
など、約50種類ほどの存在が確認されていますが、うつ病にはセロトニンとノルアドレナリンが関係していると考えられています。
●セロトニン
体温調節、感覚知覚、睡眠の開始にかかわる神経伝達物質で、不安を抑えて、平常心保つように働きます。
この働きが弱まると、イライラ、不安、睡眠障害、衝動的な自傷行為などが起こりやすくなります。
●ノルアドレナリン
興奮性の物質で、覚醒、集中、記憶、積極性などにかかわりがあります。
不安や恐怖とも深く関係し、危険を察知した時など、筋肉に血液を送りこんで心拍を速めたり、血圧を高めたりします。
この働きが弱まると、意欲や集中力の低下、疲労、倦怠感などが起こりやすくなります。
うつ状態の時は、このセロトニンとノルアドレナリンの働きが極端に低下することがわかっていますが、このような変化が起きるのは定型うつ病の場合です。
非定型うつ病では違う物質変化がみられる
非定型うつ病の脳内変化の研究は、定型うつ病と並行して進められています。
例えば、セロトニンの働きですが、非定型うつ病では、定型うつ病のような低下は見られず、パニック症と併発する非定型うつ病の場合では、むしろ高まるという研究報告もあります。
また、パニック発作のない非定型うつ病では、アセチルコリン受容体が過敏になっているという実験報告もあります。
アセチルコリン受容体は、レム睡眠と呼ばれる浅い眠りとかかわる部分です。
また、非定型うつ病の眠気やだるさを改善するための薬は、ドーパミンに作用するものが多いことから、ドーパミンの持続異常があることも推定されています。
次回、「脳内の変化とうつ病 ② 血流の悪化や機能の低下」へ続く