うつ病になる人は年々増えていると言われており、厚生労労働省の調査では、日本の潜在的なうつ病患者の人数は600万人を超えると言われています。
うつ病患者の中でも、最近増え始めていると言われているのが「非定型うつ病」と呼ばれるニュータイプのうつ病です。
「非定型うつ病ってどんな病気?」では、専門家でも理解が不十分とも言われている「非定型うつ病」とは、どんな病気なのか?その症状や治療法などを紹介していきます。
第15回は、「遺伝の影響度合い」?の続き、「養育歴とうつ病との関係」をみていきます。
目次
養育歴とうつ病との関係
本来なら、親の愛情を受けて見守られて育つはずの幼少期。
ですが、この時期の虐待や離別体験は、精神疾患の発症に深くかかわります。
強いストレスが脳の発達に影響するためです。
親との離別、虐待などが子どもの心に与える傷
精神疾患と子ども時代の育ち方(養育歴)、深いかかわりがあると考えられています。
特に母親との関係は大切です。
脳の90%は、3歳までに発達しますが、この時期は母親からしっかり抱きしめられて世話を受けることで、他者への信頼感が生まれ、自我が育まれていきます。
また、母親とのスキンシップは、抗ストレスホルモンの遺伝子を活性化させることが動物実験でも明らかになっています。
一方、子ども時代に親から虐待やネグレクト(養育放棄・怠慢)などを受けると、PTSD、アダルトチルドレン、パーソナリティ障害など、精神疾患の発症に影響を及ぼすことが明らかになってきています。
うつ病の場合は、「仕事うつ」とのかかわりから、職場環境の問題が注目されがちですが、幼少時の経験から影響も少なくありません。
うつ病の人の養育歴を追跡調査した研究では、子ども時代に次のような経験をした人が多く見られました。
- 母親の養育態度の異常
- 転居 両親の別居・離婚
- 11歳以前に両親のいずれかと別離
- 教師から問題児と評価
- 内気な子ども
これらは、うつ病全体の調査ですが、非定型うつ病に絞ってみると、
- 性的虐待
- 身体的虐待
- ネグレクト
このような経験をした人が多く見られます。
非定型うつ病の人は、うつ病でない人に比べて、虐待を経験した人が多いのです。
強いストレス経験が脳にダメージを与える
子どもにとって親は守ってくれるはずの存在ですが、その親から虐待などによって傷づけられると、心の平穏が失われます。
「いつ危険がやってくるか分からない」という緊張感を常に抱えることになるため、強いストレスにさらされることになるわけです。
また、子ども時代のこのような経験は、脳の発達に強く影響することが最近の研究でわかってきています。
激しいストレスは、脳の一部の発達を阻害し、脳自体の機能、神経構造に永続的なダメージを与える可能性があります。
例えば、私たちは危機的状況にあろうと、本能行動や情動・感情の中枢である大脳辺縁系(海馬や偏桃体)が、恐怖を察知して反応します。
危機が重なり反応が過剰に繰り返されると、大脳辺縁系は常に過敏になり、ささいなことにも激しい恐怖感を感じたり、攻撃的になったりすると考えられています。
また、脳にある特徴的な遺伝子を持つ人は、幼少時に虐待や両親との離別などの体験をすると、大人になってからうつ病を発症しやすい、という興味深い研究報告もあります。
虐待にあたる行為
(厚生労働省)
【1】身体的虐待
殴る、蹴る、食事を与えな、冬に戸外に締めだす。布団蒸しにする。一室に拘束する。
【2】ネグレクト
家に閉じ込める。病気になっても病院に連れて行かない。乳幼児を家に閉じ込めたまま度々外出する。乳幼児を車に放置する。適切な食事を与えない。下着などを長期間不潔なままにする。
【3】性的虐待
子どもとの性交。性的暴行。性器や性交を見せる。ポルノの被写体などを子どもに強要する。
【4】心理的虐待
言葉による脅かし。無視や否定的な態度。自尊心を傷づけるような言動。他の兄弟姉妹と著しく差別的な扱いをする。
次回、「現代の社会環境が非定型うつ病の原因?」へ続く