うつ病になる人は年々増えていると言われており、厚生労労働省の調査では、日本の潜在的なうつ病患者の人数は600万人を超えると言われています。
うつ病患者の中でも、最近増え始めていると言われているのが「非定型うつ病」と呼ばれるニュータイプのうつ病です。
「非定型うつ病ってどんな病気?」では、専門家でも理解が不十分とも言われている「非定型うつ病」とは、どんな病気なのか?その症状や治療法などを紹介していきます。
第16回は、「養育歴とうつ病との関係」の続き、「現代の社会環境が非定型うつ病の原因?」をみていきます。
目次
現代の社会環境が非定型うつ病の原因?
こちらのページで、非定型うつ病の人には、従来型のうつ病とは違った気質がある、という説明をしましたが、このタイプの日本人は、どのような社会環境から生まれてきたのでしょうか。
ここに、非定型うつ病を知る1つのヒントがあると思われます。
情報化・スピード化が不安を生む
非定型うつ病は「不安」がベースになり発症する病気です。
不安はドイツ語で「Angst」といい、「押しやられ胸が痛む」という意味があります。
外からの刺激によるプレッシャーの苦痛で、自分の存在意義を物理的・精神的に見失ってしまっている状態です。
自分の何に確信を持って生きるのか?
これらが見えなくなっている状態と言えます。
現在人にとってプレッシャーを与える刺激としてまず考えられるのが、洪水のように溢れる情報です。
活字や映像をはじめ、いまやインターネットや携帯電話からも様々な情報が得られます。
しかし、おびただしい量の情報に振り回され、大切なものは見えにくく、不安をかきたててしまうももです。
また、社会のハイスピード化も、不安を誘うプレッシャーになります。
新幹線、飛行機などの交通網が発達し、北海道や九州でも日帰りで往復できます。
計算すると、現代は、江戸時代の140倍、大正時代(東京から下関)の30倍のスピードで回っていることになります。
確かに便利にはまりましたが、逆に言うとゆとりがなくなったともいえます。
スピードを要求される社会は、効率優先ですので、すべてがマニュアル化され、立ち止まって深く考えたり、疑問を持つことが許されません。
いつも何かにせかされている…。
これも不安を生む土壌となっていると考えられます。
都市型生活がうつ病の引き金?
現在、日本では全世帯の80%が都市で生活していますが、都市にばかり人口が集中しているので、その人口密度は実質的に明治時代の10倍になっていると言われています。
都市では、一人あたりの物理的な空間が狭いため、これもストレスとなります。
また、24時間営業のコンビニなどが発達し、都会では夜も眠れずに活動する生活が当たり前になっています。
昼夜逆転した生活は、脳にある体内時計を狂わせ、非定型うつ病を発症させる引き金になります。
核家族化で孤立する親と心が鍛えられない子ども
前回、お話しした通り、幼少期に母親から十分な愛情を注がれなかったり、11歳以前に両親のどちらかと離別したり(早期離別)、虐待を受けるといった経験は、不安症の大きなリスク要因になります。
しかし、これは母親だけの問題ではなく、社会全体の問題として捉える必要があります。
結婚しても、子どもが生まれても、仕事を続ける女性が増える一方、保育所などの支援体制はまだまだ十分とは言えません。
男女の在り方も変わってきていて、離婚するカップルが増えたり、それに伴って「ひとり親」家庭も多くなっています。
母親(父親)は、子育ての悩みを一人で抱えこみ、孤立状態の中で子どもに対して不適切な行動をとってしまうケースもあります。
現代の家庭は、大家族がひとつ屋根の下で暮らしていた時代には考えられなかった閉塞感が生まれていると言えます。
さらに、もう一つ失われたもの。
それは、欲望を肯定する社会の中で、子どもたちに「がまんする」ことを教える人生の先輩たちがいなくなってしまったことです。
前頭葉を鍛えるためには、幼少期に、
- がまんする
- 長幼の序を尊ぶ
- 一日のできごとを家族に話す
といったことを経験することが大切です。
しかし、現代は、子どもたちが欲望ばかりふくらませ、心をコントロールする鍛錬をせずに大人になります。
こういったことも、非定型うつ病が増える一因と考えられます。
次回、「体を使わないと心も不調になる」へ続く