うつ病になる人は年々増えていると言われており、厚生労労働省の調査では、日本の潜在的なうつ病患者の人数は600万人を超えると言われています。
うつ病患者の中でも、最近増え始めていると言われているのが「非定型うつ病」と呼ばれるニュータイプのうつ病です。
「非定型うつ病ってどんな病気?」では、専門家でも理解が不十分とも言われている「非定型うつ病」とは、どんな病気なのか?その症状や治療法などを紹介していきます。
第36回は、「パニック症の診断」の続き、「非定型うつ病の治療 ① 薬物療法」をみていきます。
目次
非定型うつ病の治療 ① 薬物療法
非定型うつ病の治療の中心は薬物治療です。
その人の状態に合わせ、薬を組み合わせていきます。
抗うつ薬を中心に、いくつかの薬を組み合わせる
非定型うつ病は、脳内の神経伝達物質の働きが弱まったり、アンバランスになっていることが考えられます。
この神経伝達物質の変調を、外からの薬によって調整し、改善していくのが薬物療法です。
元々、非定型うつ病は、モノアミン酸化酵素阻害薬(MAOI)が劇的に効くうつ病として報告されたところから、その存在が知られるようになった病気です。
現在でも、MAOIは非定型うつ病に対して最も効果が認められている薬の一つですが、残念ながら日本ではまだ認可されていません。
日本にも、MOAIのひとつ、塩酸セレギリンがありますが、これはパーキンソン病の治療薬です。
非定型うつ病にも効果がみられるという報告もありますが、まだ研究段階で、非定型うつ病への一般使用は認められていません。
その他では、アメリカで効果が認められている抗うつ薬がいくつかあり、そのうち、ノルアドレナリン・ドーパミン再取り込み阻害薬(ブプロピオン)は、日本でも治験が進んでいます。
このように、非定型うつ病の薬物療法はまだ開発段階ですが、一定の効果が認められている方法はあります。
基本となるのは「抗うつ薬」で、これに「抗不安薬」や、疲労、眠気、イライラ、焦り、興奮といったさまざまな症状を改善する「感情調整薬」や「抗精神病薬」などを組み合わせます。
非定型うつ病の治療に使われる「抗うつ薬」
●三環系抗うつ薬
(薬品名:イミプラミン・商品名:トフラミール、イミドール)
中枢神経系で、ノルアドレナリンやセロトニンの再取込みを阻害して、うつ症状を改善します。
抗うつ薬の中では最も古い薬ですが、現在でもイミプラミンより作用の強い抗うつ薬は日本にはありません。
非定型うつ病に対しては、MAOIと比べると効果はいまひとつですが、日本で使える抗うつ薬の中では、最も高い効果がみられます。
非定型うつ病の眠気や疲労は頑固でやっかいな症状ですが、イミプラミンはこれらにも効果があります。
比較的安全で、手軽に使える薬といえます。
【副作用】
よくみられるのは、かすみ目、口渇(口のかわき)、頻尿、便秘、記銘力低下、手の震え、性機能障害、立ち眩み、吐き気、頭痛など。
また、大量に投与すると心機能を低下させるおそれがあります。
●SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
(薬品名:フルボキサミン・商品名:デプロメール、ルボックス/薬品名:パロキセチン・商品名:パキシル/薬品名:塩酸セルトラリン・商品名:ジェイゾロフト/薬品名:エスシタロプラム・商品名:レクサプロ)
セロトニン(不安を抑え、平常心を保つように働く神経伝達物質)が、元の細胞に再取込みされるのを防ぎ、結果としてセロトニンが増やすように働きます。
SSRIの特徴は、セロトニンだけに選択的に働き、他の神経伝達物質にが作用しないため、抗コリン作用(口渇、目のかすみ、便秘、動悸、排尿障害など)少なく、依存性がありません。
そのため、十分な量を投与でき、治療効果を高めることができます。
非定型うつ病に対する効果は、目を見張るほどではありませんが、非定型うつ病の多くに人は、他の不安症を併発しているため、基礎薬として使う意味はあります。
【副作用】
副作用は少ないといわれていますが、飲み始めには、吐き気、眠気、めまい、易刺激性などがあらわれることがあります。
様子を見ながら少量から服用を始めたり、胃腸薬を併用するなどの対処をとれば問題は起こりません。
長期使用では、人によって性機能障害や肥満があらわれることもあります。
●SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
(薬品名:ミルナシプラン・商品名:トレドミン/薬品名:デュロキセチン・商品名:サインバルタ)
SSRIの効果に加え、ノルアドレナリンの再取込みも防ぎ、セロトニンと両方の量を増やすように働きます。
非定型うつ病に対する効果はあまり期待できませんが、意欲低下や無感動には効果があります。
【副作用】
吐き気、頭痛、排尿困難、高血圧などがみられることがあります。
非定型うつ病の治療に使われる「抗不安薬」
非定型うつ病では、不安症をともなうことが多いため、抗不安薬も処方されます。
抗不安薬には多くの種類がありますが、作用時間が長い、ベンゾジアゼピン系抗不安薬が使われます。
●ベンゾジアゼピン系抗不安薬
(薬品名:ロプラゼプ酸エチル・商品名:メイラックス/薬品名:フルトプラザセパム・商品名:レスタス)
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、神経の興奮や、神経の興奮や不安をしずめる神経伝達物質・ギャバの活性化を高める効果があり、不安や緊張、抑うつ気分をおだやかに改善する効果があります。
中でも、ロフラゼプ酸エチルと、フルトプラゼパムは効果が長持ちします。
【副作用】
眠気、ふらつき、攻撃性、動作が鈍くなる、不器用になる、記憶力低下、注力低下、など。
非定型うつ病の治療に使われる、その他の薬
非定型うつ病によって起こる、やっかいな症状を改善するために、抗うつ薬に組み合わせて、いくつかの薬を使うと効果がみられます。
●感情調整薬
(薬品名:パロプロ酸ナトリウム・商品名:バレリン、デパケン)
非定型うつ病の特徴的な症状のうち、不安・抑うつ発作や気分のムラに効果を発揮します。
感情調整薬は数種類ありますが、パロプロ酸が最も効果をみせます。
元々はてんかんの薬でしたが、最近では双極性障害の治療にも使われます。
また、パニック発作にも効果があります。
【副作用】
眠気、めまい、など。
●抗精神病薬
(薬品名:オランザピン・商品名:ジプレキサ/薬品名:クエチアピンフマル酸塩・商品名:セロクエル/薬品名:アリピプラゾール・商品名:エビリファイ/薬品名:ブロナンセリン・商品名:ロナセン)
非定型うつ病では、激しい不安感や焦燥感(不安・抑うつ発作)がみられますが、このような時に抗精神病薬が使われることがあります。
ただし、古いタイプの定型抗精神病薬は、錐体外路症状(手足の震え、こわばりなど体の動きがおかしくなる)が出やすいので、オランザピンなどの非定型抗精神病薬を使います。
これらの非定型抗精神病薬は、軽躁状態や興奮状態にも効果があります。
中には、眠気や疲労感をとって、やる気を出したり、不安・抑うつ発作に効果をあげることがあります。
【副作用】
血糖を上昇させる作用があるため、糖尿病の人やその疑いがある人は使えません。
次回、「非定型うつ病の治療 ② 精神療法」へ続く