うつ病になる人は年々増えていると言われており、厚生労労働省の調査では、日本の潜在的なうつ病患者の人数は600万人を超えると言われています。
うつ病患者の中でも、最近増え始めていると言われているのが「非定型うつ病」と呼ばれるニュータイプのうつ病です。
「非定型うつ病ってどんな病気?」では、専門家でも理解が不十分とも言われている「非定型うつ病」とは、どんな病気なのか?その症状や治療法などを紹介していきます。
第39回は、「パニック症の治療 ① 薬物療法」の続き、「パニック症の治療 ② 治療に使われる薬」をみていきます。
目次
パニック症の治療 ② 治療に使われる薬
パニック症の治療に使われる薬は多種類ありますが、一部には非定型うつ病の治療に使われる薬と共通のものもあります。
パニック症の薬物療法をトータルで知るために、改めて詳しくみていきましょう、
主に使われるのは2種類だがそれぞれメリット・デメリットが
パニック症の治療で使われる薬は、主に2種類です。
ひとつは、抗うつ薬のSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)。
日本では、パロキセチンとセルトラリンがパニック症の薬として認可されています。
パニック症には有効ですが、速効性がなく、効果があらわれるまで数日から数週間かかります。
もうひとつは、抗不安薬(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)で、こちらは速効性があり(通常数十分で効果があらわれる)、初期の副作用が比較的軽いため、治療の開始時から使われます。
また、発作が起きた時に頓服(応急的に服用すること)したり、広場恐怖を感じた時に頓服する、といった使い方もできます。
この2つには、それぞれメリット・デメリットがあるため、患者さんの状態に合わせて適切な処方を行うことが治療の鍵となります。
副作用が少なく治療効果が高い「抗うつ薬」
●SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
パニック症治療の主流となっている薬。
セロトニンが元の細胞に再取込みされるのを防ぐことで、セロトニンの量を増やすように働く薬です。
副作用が少なく、依存性もないため、治療効果を高めたい時でも十分な量が投与できます。
ただし、パニック発作を抑える効果があらわれるまで時間がかかります。
少なくとも2~4週間、人によっては、8週間~12週経ってから効果を実感するということもあるため、焦らずに様子をみましょう。
一方、広場恐怖症に対しては、ベンゾジアゼピン系抗不安薬に比べて圧倒的に高い効果があります。
副作用
少ないですが、飲み始めに、吐き気、めまいなどが出ることがあります。
少量から服用を始める、胃腸薬を併用する、といった対処をすれば問題ありません。
注意点
SSRIの飲み始めで副作用が出た人は、断薬するときにも副作用(断薬症状)が出ることが多いので、医師の指示通りに減薬していくことが重要です。
●三環系抗うつ薬
SSRIが開発される前までは、パニック症治療の主力でした。
パニック症という病気が認識されたのは、イミプラミンという薬がパニック発作に高い効果を発揮したことがきっかけでしたが、イミプラミンは三環系抗うつ薬のひとつです。
セロトニンとノルアドレナリンの再取込みを阻害してパニック発作を防ぎますが、アセチルコリンにも影響するため、抗コリン作用による副作用も招く点が、SSRIと大きく異なる点です。
現在、パニック症の治療につかわれることは少なくなりましたが、SSRIを使用できない人や、うつ症状が強い人には、三環系抗うつ薬が適応となります。
副作用
抗コリン作用による、かすみ目、口の渇き、頻脈、記銘力低下、手の震え、性機能障害、立ち眩み、吐き気、頭痛など。
大量に服用すると、心機能を低下させるおそれがあります。
●SNRI(セロトニン・ノルアドレナリンの再取込み阻害薬)
SSRIに続いて認可された、第4世代の抗うつ薬です。
SSRIがセロトニンだけに作用するのに対し、SNRIはセロトニンとノルアドレナリンの両方に作用します。
抗コリン作用による副作用の少ない薬で、特に意欲低下や無感動に有効で、うつ病を併発したなどに適しています。
副作用
吐き気、頭痛、排尿困難、高血圧などがみられることがあります。
●その他の抗うつ薬(スルピリド)
スルピリドとは、従来の三環系抗うつ薬とは作用が異なる抗うつ薬です。
- 不快な身体不定愁訴をとり去る
- くよくよと思い悩む「こだわり状態」をなくす
- 病気に立ち向かう英気を養う
といった、賦活作用があります。
また、消化管の動きを活発にしたり、食欲亢進作用、吐き気や腹部の不快感を改善する作用などがあるので、頑固な吐き気症状をもつ患者さんに適しています。
副作用
女性は、乳汁分泌、無月経、体重増加などのあらわれやすくなるため、治療開始時のみ使うなどの対処をします。
パニック発作や予期不安に効果がある「抗不安薬」
●ベンゾジアゼピン系不安薬
神経の興奮や不安を鎮める神経伝達物質・ギャバの活性化を高める働きがあり、特にパニック発作や予期不安に効果があります。
SSRIや三環系抗うつ薬は、効果が出るまでの期間が長いため、その間にパニック発作が出た時に応急的に処方する。
または、外出時に持ち歩き、広場恐怖症の症状を感じた時に服用する、といった使い方ができます。
例えば、作用時間が短いロラゼパムは、舌下で服用すると即効するので、不安時の特効薬としても有名です。
ベンゾジアゼピン系抗不安薬は、パニック症の治療ガイドラインで、抗うつ薬(SSRI)との併用で治療を開始することがすすめられています。
副作用
眠気、ふらつき、攻撃性、動作がにぶくなる、不器用になる、記憶力低下、注意力低下、など。
注意点
耐性(薬の効きが悪くなる)や依存性(飲み続けるとやめられなくなる)が強いため、服用を突然中断すると、症状の再発や離脱症状(吐き気、耳鳴り、けいれんなど)があるため、時間をかけて減らしていくことが重要です。
●β遮断薬
βアドレナリン受容体を遮断する薬。
アメリカでは標準的な抗不安薬として認められており、パニック症にも使用されます。
心臓の神経に直接作用して、心悸亢進(強いドキドキ感)を抑えるだけでなく、脳内アドレナリンのβ受容体にも作用して不安を抑える効果もあるので、動悸の激しいパニック発作にも適しています。
ただし、症状をやわらげるだけで、パニック発作そのものを抑える効果はありません。
副作用
気管支を収縮させる作用があるため、喘息の人が服用するのは危険です。
血圧を下げる、不眠、怠さ、吐き気などもみられます。
血圧が低い人は、注意して服用する必要があります。
次回、「広場恐怖症を改善する行動療法」へ続く