今回は、「適応障害」の診断と、治療法を詳しく見ていきます。
前回の記事⇒適応障害とは?① ~こんな人がなりやすい・・性格&症状チェック~
前回の記事⇒適応障害とは?② ~特徴と3つの症状~
目次
適応障害の診断
適応障害は、うつや不安障害など、症状が似ている病気がたくさんあり、診断する上で、それらの病気との違いをしっかり把握する必要があります。
適応障害と似ている病気
適応障害
適応障害の診断は、以下の2点から検討していきます。
- よく似ていても、うつ病、不安障害、PTSDの診断基準を満たすほどではない
- いわゆる心因反応、第三者がみても明らかな苦悩を引き起こすできごとがあり、それに心身が反応した状態
適応障害の症状
- 抑うつ感
- 不安
- イライラ
- ストレスがない状況では行動できる
- 傷つきやすい
- つらかった思い出がよみがえる
- 反社会的行為
- 感情が不安定
- 原因となったストレスがわかる
うつ病(大うつ病)
明らかなストレスの有無が違うだけで、軽度のうつ病と、ほとんど見分けがつかない。
うつ状態があれば「うつ病」と診断されがち。実は適応障害という場合も。
似ている症状
- 抑うつ感
- イライラ
不安障害
不安障害での不安は、理由がないことが多く、その程度が強い
似ている症状
- 不安
- イライラ
非定型うつ病
非定型うつ病では、感情過敏があるので、ささいな出来事にも過大な反応があり機能障害が出る。そのため、適応障害と診断されることが多い。
似ている症状
- イライラ
- ストレスがない状況では行動できる
- 傷つきやす
PTSD
トラウマとなったできごとを思い出しては、抑うつや不安になる。PTSDの判断基準はトラウマを「生命にかかわるような体験」とされている。
似ている症状
- つらかった思い出がよみがえる
パーソナリティ障害
できごとの解釈の仕方、感情、対人関係、衝動のコントロールに偏りが現れる病気。適応障害と共通点が多く、中には合併している例もある。
似ている症状
- 感情が不安定
- 反社会的行為
適応障害に合併しやすいパーソナリティ障害
1.境界性パーソナリティー障害
感情が激しく上下し、不安定。そのため周囲の人を巻き込むトラブルになり、人間関係に支障をきたす。
2.統合失調症パーソナリティ障害
風変りな言動をする。過剰な社会不安があり、想像を広げ、恐怖にとらわれる。疑い深く、細部にこだわる。人との関係を築くのが苦手で、家族以外に親しい友人や信頼できる人がいいない。
3.自己愛性パーソナリティ障害
自分を特別な人間だと思っている。自己を誇大化してでも称賛を求めたりする。一方、見捨てられることをおそれ、他人に依存しようとする。
4.反社会性パーソナリティ障害
自己中心的、誇大的で、人を信頼せず、嘘をついたり責任を放棄する。仕事を続けられず経済的に破綻する人も。逮捕されるような違法行為に及ぶことも。
適応障害の治療
適応障害の治療は、精神療法を中心に生活療法、症状によっては薬物療法を併用します。
まずは、原因となったストレスをつきとめるところから始めます。
適応障害は、ストレスが原因の病気なので、ストレスを除くことが一番の治療になります。
3か月以内に大きな環境の変化があったか書き出してみる
相談、話し合いを同僚、上司、家族、教師などと。ストレスを物理的になくす方法を探す
薬物療法
薬物療法は、抑うつ、不安、焦燥感、感情の不安定などの、つらい精神状態を軽減することが目的です。
脳に作用する薬なので、医師の指示通り服薬することが大切です。
向精神薬
- 抗不安薬
- 抗うつ薬
- 気分安定薬
- 抗精神病薬
- 睡眠薬
…など
精神療法
精神療法は、カウンセリングを中心に、ものごとのとらえ方を変え、ストレスと上手に対応できるようにしていきます。
支持療法
患者の話を「支持」的に聞くカウンセリング。
医師やカウンセラーなどの医療従事者と患者との会話で行われます。
医療者は、患者さんの話に耳を傾け、受け入れ、理解し、共感したり、励ましたりしながら、患者の根底にあるものに気づかせ、変化するのを待ちます。
患者側は、「話を聞いてくれない」「話を聞くだけで何もしてくれない」など不満を持つ人もいるかもしれませんが、治療や内容に疑問を持ったら勇気を出してたずねるようにしましょう。
医療者への信頼感が大切で、不信感を持ったままでは治療が進みません。
認知療法
ものごとのとらえ方を変えるのが「認知療法」です。
人は、ものごとに対して最初に頭に浮かぶイメージや考えがあります(自動思考)。
その次に、どういう判断をするかが「認知」です。
一つのできごとがあって「嫌だな(自動思考)」と思っても、次に「どうしよう(認知)」と考えるか「許せない(認知)」と考えるかでは、その後のストレスは大きく変わってきます。
認知の仕方を変えるのが「認知療法」です。
(認知)同僚もあきれているだろう…
(認知)見捨てられてクビになる…
(認知)もう会社を辞めるしかない…
(認知)私はいらない人間だ…
「認知」が変わると…
(認知)まだまだ挽回のチャンスはある。次は気をつけよう
曝露療法
あえてストレス状態に身を置く方法です。
適応障害の人は、ストレスがあると逃げる傾向があります。
しかし、いつまでも逃げていては、一時的な安心は得られても、同じようなストレスを感じたら、また発症してしまいます。
ストレス状況で、しばらく我慢し、予想しているようなひどい結果にならないこと、身をもって理解します。
ストレス下でも、抑うつや不安にならず、落ち着いた言動ができたことが自信にも繋がります。
生活療法
適応障害で、学校や会社に行かなくなると、一日の時間的区切りがなくなり、生活リズムが乱れやすくなります。
食事は睡眠の時間がずれたり、昼夜逆転することは、心身のエネルギーを無駄に消費し、回復のためになりません。
まずは、睡眠と食事の時間を一定にし、適度な運動も行いましょう。
おススメは掃除です。
体を動かすという点でも無理がなく、物理的にも部屋がきれいになれば気分もさっぱりします。
さらに、家族にも感謝されるという点でも掃除は有効な運動の一つと言えます。
周囲の人の対応
適応障害で、抑うつ症状がある人には心の休養が必要です。
適応障害は、軽い鼻かぜくらいの病気。
軽い抑うつがあるうちに休めば、うつ病にならずに済みます。
本人は「休んでいられない」と罪悪感を持つかもしれません。
それでも、周囲の人は、激励や忠告より、しばらく休職や休学をしてでも心のエネルギーを回復させることが重要だ、と休養を勧めましょう。
周囲が避けたい言動
- 気持ちの問題だ
- 甘えてるんじゃない
- 元気を出して頑張って
- 温泉にでも行ってきたら
- 病気を治してから来い
- そんなに薬を飲んで大丈夫?
回復
適応障害は、比較的治りやすい病気です。
患者の5年後の状況を見ると、多くの人が治癒しています。
ただし、適応障害が重症化したり、ストレスを乗り越えられず、他の病気を発症している人も少なくないため、経過をよく見ていくことが大切です。
病気を治すのは、本人の「よくなりたい」という気持ちがあってこそ。
後悔ではなく反省し、次のステージに生かしましょう。
参考:
適応障害のことがよくわかる本,貝谷久宣,2014/04/16,株式会社講談社