うつ病になる人は年々増えていると言われており、厚生労労働省の調査では、日本の潜在的なうつ病患者の人数は600万人を超えると言われています。
うつ病患者の中でも、最近増え始めていると言われているのが「非定型うつ病」と呼ばれるニュータイプのうつ病です。
「非定型うつ病ってどんな病気?」では、専門家でも理解が不十分とも言われている「非定型うつ病」とは、どんな病気なのか?その症状や治療法などを紹介していきます。
第27回は、「パニック症とうつ病はきってもきれない関係」の続き、「社交不安症とはどんな病気か」をみていきます。
目次
社交不安症とはどんな病気か
もともとあった「怖がり」の気質が病的に高まり、恥をかくような場所や状況を避けるようなるのが「社交不安症」。
赤面などの身体症状を伴う恐怖症のひとつですが、性格の問題ではありません。
不安や恐怖が身体症状を引き起こし日常生活にも支障が
「社交不安症」は、恐怖症の一つです。
その中心にあるのは、自分の能力や外見が他人より劣って評価されることへの恐怖です。
結果、自分が他人に対して好ましくない印象を与えたり、恥をかいたりすることを恐れます。
不安や恐怖が高まると、多くの場合、
- 手足が震える
- 息が苦しくなる
- 大量の汗をかく
- 顔が赤くなる
- 声が出なくなる
- 頻繁にトイレに行きたくなる
など、さまざまな身体症状があらわれます。
また、不安や恐怖を感じる場面を避けようとする回避行動を伴うため、病気が進むほど日常生活に重大な影響を及ぼします。
しかし、本人や周囲の人にも病気という認識がないため、ほとんどの場合、
- あがり症
- 気の持ちよう
など、性格のせいにされてしまいます。
そのため、発症してから何年も経ってから初めて受診する人が少なくありません。
例えば、症状そのものは高校・大学時代からあったものの、一人で悩みを抱えている場合。
就職して社会生活をはじめたり、結婚や出産をして母親同士の付き合いが始まった際、人間関係の苦痛はトラブルが増えて立ち行かなくなりってから医療機関を受診する、といったケースが多くみられます。
社交不安症は10人に一人の病気。女性の罹患率は男性の2倍
日本には以前から「対人恐怖症」という病気がありましたが、これは「恥の文化」が根底にある東洋人特特有のものであると考えられていました。
しかし、近年、欧米人にも少なくないことが分かり、世界的にも注目されるようになってきています。
そこで、米国精神医学会がまとめた疾患概要が、「社交不安症」です。
英語名で「Social Anxiety Disorder」といい、頭文字をとって「SAD」という呼び方をすることもあります。
社交不安症と対人恐怖症は、ほぼ同じ病態を示しますが、社交不安症には、対人恐怖に含まれる妄想をともなう症状が入っていないため、この2つは、厳密にいうと違う病気です。
ただし、現在は対人恐怖症を含めて、「社交不安症」と呼ぶのが一般的になっています。
社交不安症は、アメリカの疫学調査で、全人口の10~15%にみられ、女性に多く、罹患率は男性の2倍とされています。
不安気質が引き起こす「こわがり」の病気
恐怖症を含めた不安症の病気は、その人の根底にある「不安気質」が病的に高まり、心や体にさまざまな症状が出る病気です。
不安症になる人は、基本的に、
- こだわり
- こわがり
の気質があり、それが病気を引き起こすと考えられています。
「こだわり」とは、一つのことが気になると、それから他に考えを移すことができなくなってしまう状態で、特に「強迫症」の人によくあらわれます。
「こわがり」が典型的にあらわれるのが、「限局性恐怖症」や「社交不安」だと言えます。
つまり、元々こわがりの気質を持っているため、社交不安症の人は、他の不安症の病気とも無縁ではいられないのです。
特にパニック症は、非常に高い確率で発症し、アメリカの研究によると、パニック症の患者さんが生涯に社交不安症を併発する割合は、67%にものぼります。
また、非定型うつ病も高い確率で併発します。
非定型うつ病に併発する不安症で、2番目に多いのが社交不安症で、併発率は29~40%にのぼります。
社交不安の側から調査したものをみても、社交不安症にうつ病を併発する割合は、34%と非常に高くなっています。
次回、「社交不安症はどんな場面が怖いのか」へ続く